働き方の多様化が進んだことで、近年はフリーランスとして働く人が増えています。
一方で、本来はフリーランスであるにもかかわらず、業務委託先から時間や場所について、労働者と同等の制約を受ける「偽装フリーランス」の問題も深刻化しています。
偽装フリーランスには社会保険への加入や労働時間に関する規制が受けられないなど、さまざまな問題が内包されています。
また、企業が偽装フリーランスとして労働者を雇用すると、法的な責任を問われる可能性もあります。
偽装フリーランスの問題点や労働者とフリーランスの違いについて、あらためて理解を深めましょう。
フリーランスとは、企業に雇用されることなく、仕事ごとに事業者と契約を結んで業務を遂行する働き方のことで、総務省では「実店舗がなく、雇人もいない自営業主又は一人社長であって、その仕事で収入を得る者」と定義しています。
2022年の「就業構造基本調査」では、初めてフリーランスの実態が明らかになり、日本では209万人がフリーランスを本業として働いていることがわかりました。
仕事をしている有業者に占める割合は3.1%となっており、職業別では「建設業」のフリーランスが50万人と最も多く、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」が37万人となっています。
人材の活用という点で、フリーランスと契約を結ぶ事業者も増加傾向にあり、2024年11月1日からは、取引の適正化と就業環境の整備を目的に「フリーランス新法」がスタートしました。
しかし、このフリーランス新法でも守られないのが、偽装フリーランスという存在です。
偽装フリーランスとは、フリーランスであるにもかかわらず、労働者と同じような条件で働くことを指します。
そして、偽装フリーランスには、労働基準法などの労働法の保護を受けられないという問題があります。
労働法が保護するのは、あくまで労働者に限られ、フリーランスは保護の対象外となるためです。
そもそもフリーランスと労働者は契約形態や根拠となる法律が異なります。
事業者がフリーランスに仕事を依頼する場合は、「民法」に基づいて業務委託契約を結びますが、労働者を雇用する場合には「労働契約法」に基づいて雇用契約を結びます。
雇用契約によって雇用した労働者には、就業時間や就業場所などを指揮監督することが可能ですが、フリーランスに対しては指揮監督を行なってはいけません。
働く時間や場所などはフリーランス側が任意で決めます。
また、労働法が適用されないということは、長時間労働や残業の上限などの規制を受けず、労災や最低賃金なども適用されないということでもあります。
この労働法の規制や適用を受けないという部分に、偽装フリーランスの大きな問題があります。
偽装フリーランスの具体例としては、事業者の実質的な指揮監督下で働いているにもかかわらず業務委託契約を結んでいるケースや、労働時間や業務内容が労働者とほぼ同じであるにもかかわらずフリーランスとみなされているケースなどがあります。
偽装フリーランスの実態は労働者であるものの、表向きはフリーランスであるため、社会保険に加入できず、老齢年金や健康保険などの社会保障を受けられません。
また、労働時間や休日に関する規制が適用されないため、長時間労働や過労死のリスクが高まる可能性もあります。
偽装フリーランスという働き方は労働者にとってデメリットしかありませんが、事業者にとっては時間や場所などを細かく指示できて、社会保険料など事業主が負担しなくて済むというメリットがあります。
しかし、労働基準監督署の調査が入って是正措置を命じられる可能性があるうえ、労務トラブルになり、訴訟に発展するかもしれません。
安く使える便利な労働力として、安易に偽装フリーランスを使うべきではありません。
業務委託契約を結んでいても、実質的な労働者とみなされるのは「指揮監督下にあるかどうか」という点で判断されます。
働く時間や場所を指定している場合はもちろん、業務を断る許諾の自由を与えていなかったり、業務の内容や仕事の進め方について細かく指示していたりする場合は、事業者の指揮監督下にある偽装フリーランスと判断されます。
たとえば、業務委託契約であるにもかかわらず、毎日一定の時間に限り自社のオフィスに常駐させているケースなどは偽装フリーランスと判断される可能性が高いので注意が必要です。
偽装フリーランスは事業者にとっても深刻な問題です。
厚生労働省は2023年度の1年間で153人の偽装フリーランスがいたことを発表しました。
事業者は労働者やフリーランスとの関係を正しく構築し、法令を遵守することが重要になります。
もし、偽装フリーランスかどうか判断がつかない場合などは、弁護士や労働基準監督署に相談することをおすすめします。
日本においては労働者の長時間通勤や満員電車による通勤が常態化しています。
東京をはじめとした大都市圏では、満員電車に揺られながら片道1時間以上かけて通勤する人も珍しくありません。
長時間通勤やラッシュ時の通勤は、従業員のストレスや疲労の原因となるばかりか、企業全体の生産性の低下にもつながります。
こうした通勤時の問題を解消するために、企業側は何をすればよいのでしょうか。
コロナ禍を経た今だからこそ、通勤時間を短縮するための取り組みについて解説します。
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、多くの企業がテレワークや時差通勤を導入しました。
これにより、通勤電車の混雑は一時的に緩和されましたが、近年は全体の出社率も増加し、再び通勤時の混雑が戻りつつあります。
コロナ前に戻ったかのような「出社回帰」は世界的な動きでもあり、2024年9月にはアメリカのIT大手の「Amazon」がリモートワーク廃止を発表したことも大きな話題になりました。
また、日本においては、大都市圏の通勤ラッシュ時における混雑率も、コロナ前に近い状態に戻りつつあります。
国土交通省の「都市鉄道の混雑率調査」によれば、東京圏(31区間)において2019年度は163%だったピーク時の混雑率が、コロナ禍の2020年度には107%にまで落ち込んだものの、コロナが5類に移行した2023年度には136%にまで戻っています。
ちなみに、混雑率は150%が「肩が触れ合わない程度。ドア付近の人が多くなる」と定義されており、東京でも路線によってはラッシュ時に150%を超える区間がいくつかあります。
長時間通勤やラッシュ時の通勤は、従業員の生活の質に深刻な影響を与える可能性があります。
通勤時間が長いほど家族との時間が減り、家庭生活に影響を及ぼしかねません。
コロナ前の調査ではありますが、総務省の調査によれば、東京都では全国に比べ通勤にかかる時間が長くなっており、男性の帰宅時間は全国で8番目に遅く、女性は全国で最も遅くなっているというデータもあります。
また、長時間通勤やラッシュ時の通勤によって、従業員の心身の疲労も蓄積します。
長時間通勤やラッシュ時の通勤がストレスの原因となり、うつ病や心身症のリスクを高める可能性がありますし、混雑した電車に長時間乗ることで、インフルエンザやコロナなどへの感染リスクも高まります。
通勤にまつわる諸問題は、企業にとってもリスクでしかありません。
対策を講じないままだと、従業員のモチベーションや生産性の低下を招き、さらには健康問題による休職や離職リスクの増加などを引き起こすおそれがあります。
従業員の生活の質や健康を守るために、企業は従業員に負荷のかからない働き方を模索していかなければいけません。
その方法の一つとしては、時差通勤の導入が考えられます。
出勤時間を分散させることで通勤ラッシュを避けられ、従業員のストレスを大幅に軽減することが可能です。
また、フレックスタイム制や短時間勤務制度の導入も効果的です。
勤務時間を柔軟に設定できるフレックスタイム制を導入することで、従業員が自分のライフスタイルに合わせた働き方を選択できます。
また、子育てや介護などの事情を抱える従業員に対しては、短時間勤務を可能にすることで、ラッシュ時の出社や帰宅を避けられ、通勤の負担を減らすことが可能です。
さらに、コロナ禍では当たり前だったテレワークを引き続き維持することによって、通勤そのものをなくしてしまうのも選択肢の一つです。
近年の出社回帰には、コロナ禍で不足していたコミュニケーションの復活やイノベーションの促進、管理面の効率化などが背景にあります。
もしフルリモートがむずかしければ、週3日の出社に限定するなど、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークを検討してみましょう。
ほかにも、自転車通勤を制度化し、従業員が利用しやすいように駐輪場を整備したり、シャワー室を設置したりするなど、独自の取り組みによって通勤にまつわる問題を解消している企業もあります。
こうした取り組みによって、従業員の健康や仕事への満足度が向上するだけでなく、従業員がより効率的に働けるようになるほか、離職を防ぐことで人材の定着率も高まります。
企業の柔軟な働き方への対応力は、採用市場での競争力を高める要因にもなります。
通勤問題の解消は、企業と従業員の双方にとって大きなメリットのある施策です。
自社の現状を見直し、できることから取り組んでいきましょう。
2025年4月から高年齢者雇用安定法の改正によって、すべての企業は希望する全員の65歳までの雇用確保が義務づけられます。
労働者人口が減る日本では、高齢者の経験やスキルを活用し、社会全体で活躍できる環境を整えることが急務となっています。
65歳までの雇用確保の義務化によって、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
高齢者を雇用するメリットや、高齢者が活躍できる職場づくりのポイントなども踏まえて解説します。
高齢者が活躍できる環境を整えることを目的として、2013年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」が改正、施行されました。
この高年齢者雇用安定法には、継続雇用を希望する高齢者の適用年齢を段階的に引き上げる経過措置が設けられており、その経過措置期間が2025年3月31日に終了します。
そして、2025年4月1日からは、新たな高齢者の雇用を確保するための措置を講じる必要があります。
具体的には、高年齢者雇用安定法第9条第1項に基づき、定年を65歳未満に定めている事業者は、以下のいずれかの措置を講じなければいけません。
・定年制の廃止
・65歳までの定年の引上げ
・希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入
この義務化に伴い、定年を65歳未満に定めている企業には対応が求められます。
まずは就業規則を変更する必要があります。
定年制を廃止する場合は、定年に関する規定を削除し、継続雇用制度を導入する場合は制度について就業規則に明記しておきましょう。
ちなみに、就業規則の変更には、労働組合または労働者の過半数を代表する者への意見聴取、労働基準監督署への届出も必要になります。
また、常時見やすい場所に備え付けるといった方法などで全従業員への周知も忘れないようにしましょう。
適切なプロセスを踏みながら、就業規則の変更を進めていくことが重要です。
さらに、2021年の改正によって70歳までの就業機会の確保が努力義務になりました。
そのため、65歳までの雇用確保への対応と共に、こちらも対応していかなければいけません。
65歳以降の継続雇用を推進するには、職務や勤務日数の変更にあわせて、賃金などの雇用条件や仕事内容、キャリアパスを明確にした制度を設計することが大切です。
高齢者の体力や健康状態に合わせて、短時間勤務、リモートワークなどの柔軟な働き方の導入も検討しましょう。
高齢者の雇用は企業側にもさまざまなメリットがあります。
高齢者は豊富な経験や専門知識、高い責任感などを持ち合わせており、企業にとって貴重な人材といえるでしょう。
少子高齢化が進み、労働力人口が減少するなかで、高齢者の労働力はますます重要視されています。
また、高齢者は若者に比べて一般的に離職率が低く、安定した労働力の確保にもなり、企業イメージの向上にも寄与します。
専門性が求められる分野では、経験豊富な高齢者が即戦力として活躍することが期待されていますが、一方で、積み重ねた知見を活かして、これまでとは異なる分野の仕事にチャレンジする高齢者もいます。
企業としては、そうした高齢者の能力を最大限に引き出すための研修プログラムやキャリア開発などを提供する必要があります。
高齢者が持つ長年の職務経験を活用することで、職場の効率性や生産性を高められるでしょう。
65歳までの雇用確保の義務化に伴い、職場環境の改善も進めていく必要があります。
高齢者に長く働いてもらうためには健康管理が欠かせません。
企業が主導しながら、高齢者に向けた定期健康診断の実施や、働きやすいオフィスの整備などを行なっていきましょう。
また、高齢者は若い社員への教育係や指導役としても活躍してくれます。
若手社員が経験豊富な高齢社員から指導を受けられるメンター制度を導入することで、お互いに成長を促せるでしょう。
若手社員と高齢社員が互いに学び合い、協力し合えるような職場文化を醸成することが大切です。
65歳までの雇用確保の義務化は、企業にとって新たな課題となる一方で、大きなチャンスでもあります。
高齢者の能力を活用することで、企業はイノベーションを創出し、持続的な成長を促すことが期待できます。
義務化は2025年4月1日からスタートしますが、自社の状況に合わせた対応を行なっていきましょう。
企業の人材育成や組織の改善において、人事評価は重要な役割を果たします。
そして、数ある人事評価の手法のなかでも、近年注目を集めているのが「多面評価」です。
多面評価とは、上司だけではなく、同僚や部下など、複数の評価者から一人の従業員を評価する仕組みのことで、「360度評価」や「360度フィードバック」などとも呼ばれます。
多面的な視点を取り入れることで公平性や透明性を高められる一方で、リスクや課題もあります。
多面評価の導入を考えている企業に向けて、具体的なメリットやリスクなどを解説します。
多面評価とは、従業員のパフォーマンスや業務の成果、行動特性などを、複数の立場や役割を持つ評価者が評価する手法のことです。
従来の上司による人事評価は、どうしても上司の主観や個人的な感情が入り込んでしまう可能性がありました。
多面評価の目的は、一方向の評価に偏ることなく、人事評価の客観性や信頼性、公平性を高めることにあります。
上司からの評価だけでなく、同僚など、その従業員に関わる多くの人たちが評価に参加することで、従業員の行動やスキルを多面的に理解できます。
また、評価対象者自身も自己評価がほかの評価者からの評価とどう異なるのかギャップを知ることで、新たな気づきを得られるというメリットがあります。
日本では、主に成果主義を採用している大企業や外資系企業を中心に、多面評価の導入が進んでいます。
成果主義型の企業では、年功序列型の企業のような勤続年数などではなく、従業員個人の業績を正しく評価する必要があるからです。
では、これから多面評価を実施しようとしている企業は、何から取り組めばよいのでしょうか。
まず、多面評価の導入に必要なのは、導入する目的の明確化と評価項目の設定です。
公平な人事評価か、それとも人材育成なのか、メインとなる目的によって評価項目も変わってきます。
評価項目は、企業や業務などによって異なりますが、たとえば、チームで動くプロジェクトに従事している従業員であれば、「チームワーク」「リーダーシップ」「チームのルールの遵守」などが重視されます。
次に、評価者を適切に選定し、評価のプロセスやフィードバックの方法を計画します。
多面評価には人事評価のほかに、人材育成や業務改善などの目的もあり、評価対象者へ適切に評価をフィードバックすることで、その従業員の成長を促すことにもなります。
評価者は、普段から評価対象者に関わりのある上司や部下、同僚のなかから複数名を設定します。
人数は少なすぎると多面的な視点が得られませんし、多すぎると負担のかかる評価者が増えてしまうことになります。
会社の規模などにもよりますが、評価対象者一人に対して5〜10名くらいが適切とされています。
評価の実施は、事前に設定したスケジュール通りに、アンケートへの回答や、評価シートへの記入といった方法で行います。
各評価項目の合計した評価点が評価対象者の評価になりますが、本人にフィードバックする際は、単に数字を知らせるだけではなく、「どうしてその評価点になったのか」「今後はどのような部分を改善していけばよいのか」など、具体性を持って伝えましょう。
日本における多面評価の普及率は15%ほどといわれており、特に従業員のモチベーションの向上や、組織全体のコミュニケーションの活性化を図りたいと考えている企業を中心に導入が進んでいます。
一方で、導入を見送る企業も少なくありません。
客観的で公平性があり、従業員の成長にもつながる多面評価ですが、リスクもあります。
リスクの一つとして、評価者の適切ではないコメントによって、評価対象者に対する誤解を生んでしまったり、モチベーションを下げてしまったりする可能性があります。
選ばれた評価者が評価することに慣れていないケースもあり、評価基準を十分に理解していなかったり、評価に偏見が入り込んだりすることで、評価結果の信頼性が損なわれるおそれがあります。
あらかじめ評価者に対して十分な説明やトレーニングなどを行い、評価が恣意的にならないようにしなければいけません。
さらに、普段は人事評価に携わらない人が通常の業務のかたわら、評価しなければならないこともあるため、評価者の負担の増加も懸念されます。
多面評価の運用には手間やコストなどもかかるため、導入後も評価者間の意見交換や調整などを継続して行い、制度として改善していくことが求められます。
導入を検討する際には、自社の目的や組織文化に合わせて評価基準や運用方法を設計し、多面評価による効果を最大限に引き出すことが重要です。
多面評価のメリットやリスクを総合的に判断し、自社の状況に合った評価制度を構築していきましょう。
労働基準法では、使用者は労働者に対して、少なくとも毎週1日以上の休日を与えなければならないと定められています。
しかし、業種や働き方によっては、「週休1日制」が適用できないケースもあります。
そこで、労働基準法の例外的な規定として、「変形休日制」が定められています。
変形休日制とは、週休制がむずかしい場合に、4週間を通じて4日以上の休日を与えることにより、労働者の休日を確保する仕組みのことです。
長期の連続勤務が可能になる制度だけに、制度の見直しも検討されている変形休日制の詳細について解説します。
労働者に休日を付与する場合は、労働基準法第35条の1項で定められている通り、週休1日制の「1週1休」が原則です。
週休1日制では、たとえば毎週火曜日を休日にするなど、可能な限り曜日を特定するのが望ましいとされています。
この週休1日制に対して、「変形休日制」は、4週間を通じて4日以上の法定休日を付与する「4週4休」が基本となります。
労働基準法第35条の2項で「4週4休を採用している場合は、1週1休の原則を適用しない」と定められている通り、週休1日制が困難であれば、4週間に4日の休日を付与する変形休日制でも問題はありません。
変形休日制を採用している場合、たとえば1週目と3週目に休日がまったくなくても、2週目と4週目にそれぞれ2日の休日が定められているなど、4週を通して4日の休日が確保できていれば、法令違反にはなりません。
曜日に関係なく継続して作業を行う必要がある建設業や、定休日のない小売業、工場が24時間操業の製造業など、主に週休1日制のむずかしい業種で採用されている変形休日制ですが、新たに導入する場合はまず労働者の合意を得ておく必要があります。
特にこれまで週休1日制や週休2日制だった職場では反発が予想されます。
必要性を丁寧に説明し、すべての従業員に納得してもらったうえで、導入を進めていきましょう。
労働者の合意を得たら、変形休日制がスタートする「起算日」を決めて、就業規則に明記しておきます。
この起算日以降は、必ず4週間に4日以上の休日を付与する必要があります。
変形休日制では、土曜日や日曜日を休日にしなければならないという規定はありませんが、週休1日制と同様に、可能な限り曜日を特定するのが望ましいとされています。
起算日が決まったら、従業員への周知も忘れずに行なっておきましょう。
社内の掲示物や社内報、メールなどで周知を図る必要があります。
また、企業によっては業務の関係上、一部門のみに、変形休日制を導入しなければならないケースもあります。
週休1日制と変形休日制が混在している企業も少なくありません。
新たに変形休日制を導入する場合は、勤怠管理が複雑になる可能性もあるため、勤怠管理システムの見直しなども必要になります。
適時、準備を進めていきましょう。
使用者が変形休日制の導入で注意しなければならないのは、労働者の心身の健康です。
1週1休であれば、連続勤務の上限は原則12日間となりますが、変形休日制を導入することにより、労働者は最長で48日間の連続勤務が可能になります。
原則として4週間に4日の休日を付与すればいいわけですから、4週のうち最初の4日にまとめて休日を付与し、残りの24日間は勤務日、次の4週は最初の24日間を勤務日とし、最後の4日にまとめて休日を付与するというかたちで48日間の連続勤務が実現できます。
しかし、制度上の問題はないものの、このような勤務形態は、労働者の心身に大きな負担がかかり、健康を損なう可能性があります。
使用者には労働者の健康を守らなければならない「安全配慮義務」が課されています。
ハラスメント対策や職場の安全管理などと共に、労働者の過重労働の防止も使用者の責務です。
もし、長期間の連続勤務によって労働者の心身の健康が損なわれた場合、使用者の責任が問われる可能性もあるので注意してください。
また、労使間で「時間外・休日労働に関する協定(36協定)」を結べば、変形休日制であっても休日出勤を命じることができ、制度上は際限なく連続勤務をさせることも可能になってしまいます。
そこで、厚生労働省では現状を踏まえて、14日以上の連続勤務を禁止する案を軸に、変形休日制の見直しを検討しています。
これまで、過重労働防止の取り組みのなかに連続勤務の上限設定はありませんでしたが、法改正によって上限が設けられることになる可能性が高く、今後の動きを注視しておきましょう。
一般的に、変形休日制は週休1日制よりも過重労働につながりやすい制度です。
労働者の健康に配慮しながら、休日と勤務日を設定しましょう。
従業員がストレスを感じる職場は、生産性の低下や離職の増加などを招きます。
従業員が心身共に健康でいられるように、事業者はストレスを軽減させる措置を取らなければいけません。
そこで注目したいのが「ストレスコーピング」という取り組みです。
コーピングには「対処する」「切り抜ける」という意味があり、ストレスコーピングは、ストレスが生じている状況や問題への対処方法を意味します。
事業者が取り組むべきストレスコーピングの内容について解説します。
労働環境の変化や競争の激化などにより、昔よりも仕事にストレスを感じる従業員は増えています。
厚生労働省による2023年の「労働安全衛生調査」では、現在の仕事や職業に対して、強い不安や悩み、ストレスを感じているという労働者の割合は82.7%でした。
ストレスの原因となるのは、仕事の失敗や責任が39.7%ともっとも多く、次いで仕事の量が39.4%、対人関係が29.6%と続きます。
ストレスは人間の判断力や集中力に大きく影響し、従業員のストレスを放置したままだと、ミスやエラーが発生し、全体の生産性を落としてしまうことになります。
チームワークや社内の士気も低下しますし、モチベーションや仕事の満足度が下がった従業員は退職してしまいます。
さらに、ストレスは従業員の健康に直結する問題でもあります。
職場のストレスによって心身の健康を害した場合、事業者は責任を問われる可能性もあるので注意しなければいけません。
そもそもストレスとは、心理学的に外部から刺激を受けて、心に負荷がかかる緊張状態を指します。
また、ストレスの原因となる外部からの刺激は「ストレッサー」と呼び、負荷がかかった状態のことを「ストレス反応」といいます。
しかし、ストレッサーによって、ただちにストレス反応が起こるわけではなく、その人の「認知や考え方」などの心理的な要因で、心身に生じる反応も異なることがわかりました。
同じように上司から叱責された場合でも、寝込んでしまうほどショックを受ける従業員がいる一方で、まったくダメージを受けない従業員もいるということです。
このストレスコーピング理論を提唱したのが、アメリカの心理学者のリチャード・ラザルスとスーザン・フォークマンでした。
2人はさらに、ストレッサーにアプローチする「問題焦点型コーピング」や、その人の認知や考え方にアプローチする「情動焦点型コーピング」などの方法も提唱しました。
職場における問題焦点型コーピングや情動焦点型コーピングは、どういったものなのでしょうか。
たとえば、「会社から能力以上の仕事を割り振られたこと」が、その従業員にとってのストレッサーだったとします。
問題焦点型コーピングは、ストレスの根本の原因であるストレッサーを取り除くことでストレスの低減を図る方法です。
上記の例では「仕事の割り振りを変更する」「上司が仕事をサポートする」といった解決方法が考えられます。
一方、情動焦点型コーピングは、ストレッサーではなく、本人の認知や感情をコントロールして、ストレスの低減を図る方法です。
上記の例では、上司からの言葉が情動焦点型コーピングの一つになります。
仕事を割り振られた従業員にとって、その仕事が能力以上のものだったとしても、上司による「経験が得られ、将来的なキャリアにもつながる」「会社がそれだけ期待しているということ」といった励ましの言葉や説得が、認知や考え方を変えるきっかけの一つになるかもしれません。
ただし、こうしたストレスコーピングは属人的な面が強く、制度として運用していかないと、効果を発揮しません。
そこで、メンター制度の導入を考えてみてはいかがでしょう。
メンター制度とは、キャリアのあるベテラン社員がほかの社員の仕事やメンタルのサポートを行う教育制度で、多くの企業で取り入れられています。
特に経験の浅い新入社員や若手社員は仕事や人間関係でストレスを抱えることが多く、直属の上司ではないベテラン社員にいつでも気軽に相談できる環境が構築されていれば、精神的にも楽になります。
ほかにも、心理カウンセリングやメンタルヘルス研修など、ストレスコーピングを制度として活用していく方法はいくつかあります。
自社の環境に合わせた制度を導入し、ストレスを抱える従業員に対して、ストレスコーピングを実践していきましょう。
年収が一定額を超えると、税金や社会保険料などの負担が生じるため、パートやアルバイトとして働く人たちの多くは一定額を超えないように働く時間をみずから調整しています。
この負担が生じる境目となる額のことを壁にたとえて、『年収の壁』と呼んでいます。
2024年の国会では、この年収の壁が度々議題にあがりました。
しかし、一口に年収の壁といっても、年収の額や負担の種類によってさまざまな『壁』があり、有名な「103万円の壁」のほかにも、「106万円の壁」や「130万円の壁」などが存在します。
見直しが検討されている今こそ、年収の壁について理解を深めておきましょう。
パートやアルバイトの人たちが年収の壁を超えてしまうと、税金や社会保険料などの負担が増えて、自分や配偶者の手取りが減ることになってしまいます。
そのため、手取りが減らないように、勤務日数や就業時間などをみずから調整し、年収の壁を超えないようにする人がほとんどです。
この年収の壁については問題点も多く、パートやアルバイトの『働き控え』によって、事業者がほかから労働力を確保する必要が出てくるだけでなく、本人たちの労働意欲も低下してしまいます。
人手不足を深刻化させ、働くモチベーションを奪う年収の壁は、近年の賃上げの機運とも相まって、時代にそぐわないものになってきました。
近年は、国会でも年収の壁について、見直しの議論も盛んに行われています。
こうした年収の壁を巡る動向を把握するには、基本を押さえておく必要があります。
実は年収の壁は6つあり、大きく「税制上の壁」と「社会保険上の壁」に分けることができます。
まず、一番金額の低い壁が「100万円の壁」です。
100万円の壁は税制上の壁の一つで、パートやアルバイトの給与収入がある人の年収が100万円を超えると、超えた分に対して10%の住民税がかかるというものです。
住民税は住んでいる都道府県や市区町村に納める税金のことで、逆に年収が100万円を超えなければ住民税がかからず、すべての額が手取りになります。
次に、同じく税制上の壁に「103万円の壁」があります。
103万円の壁は、年収が103万円を超えると、超えた分に対して所得税がかかるというものです。
給与所得者は年収103万円までであれば、48万円の基礎控除と55万円の給与所得控除が受けられるため所得税がかかりませんが、控除の合計額である103万円を超えると所得税がかかります。
たとえば、年収が120万円の場合、103万円を差し引いた17万円に対して、所得に応じた税率の所得税が課税されます。
また、パートやアルバイトの配偶者が会社員の場合は、会社が設定している扶養手当が受け取れなくなってしまう可能性もあります。
ただし、この103万円の壁については、現在、ボーダーラインとなる額の引上げが検討されています。
100万円の壁と103万円の壁は税制上の壁でしたが、続いて金額の大きい「106万円の壁」と「130万円の壁」は社会保険上の壁になります。
従業員51人以上の企業に勤務するパートやアルバイトは、月収が8万8,000円以上で、週の労働時間が20時間以上などの要件を満たすと、配偶者の扶養から外れて、勤務先の社会保険に入ることになります。
基準となるのはこの月額8万8,000円ですが、一般的には年収106万円の壁といわれています。
年収が106万円未満であれば、被扶養者として配偶者の勤務先の社会保険に入ることができ、保険料の支払いも発生しませんでした。
しかし、年収が106万円を超え、配偶者の扶養から外れて自身の勤務先の社会保険に入ることになると、厚生年金や健康保険といった社会保険料の支払いが発生するため、手取りが減ってしまいます。
また、106万円の壁は従業員51人以上の企業に勤務するパートやアルバイトを対象としたものでしたが、従業員が50人以下の企業に勤務している場合でも、年収が130万円を超えてしまうと、配偶者の扶養から外れて、自分の勤務先の社会保険に入る必要があります。
最低賃金が上昇するなかで、長年その額が変わらなかった社会保険上の壁も問題視されてきました。
また、現在、厚生労働省では106万円の壁について、賃金の要件を撤廃する方針での調整を行なっています。
働き控えを防ぐために企業側が保険料を多く負担する案も検討されており、撤廃時期なども含めて、正式な発表を待つ必要があります。
最後に、税法上の壁として「150万円の壁」と「201万円の壁」があります。
パートやアルバイトの年収が150万円未満であれば、配偶者の配偶者特別控除として所得税の控除を38万円まで、住民税の控除を33万円まで受けられますが、150万円を超えてしまうと控除額が減り始め、年収が約201万円を超えると、控除額はゼロになります。
配偶者が最大で71万円の控除を受けるためには、年収を150万円未満にしなければいけないことになります。
このように年収の壁にはさまざまな種類があり、見直しが進められている壁もあります。
今後の動向を注視しておきましょう。
採用選考にあたって、必ず確認しなければいけないのが、応募者の経歴です。
学歴や職歴といった経歴は、従業員を採用する判断材料の一つになります。
応募者の経歴は履歴書や職務経歴書などで確認できますが、もし虚偽の記載があった場合は、会社にさまざまなリスクを及ぼす可能性があります。
採用担当者は応募者の経歴の真偽をどのように確認すればよいのでしょうか。
虚偽の記載を見抜く方法や、経歴詐称を防ぐために必要な書類などについて、解説します。
採用選考において、応募者が学歴や職歴を偽ったり、犯罪歴などを隠したりすることを「経歴詐称」といいます。
もし、応募者が経歴を詐称しており、その詐称に気がつかないまま採用してしまった場合は、会社側が損害を被ってしまうかもしれません。
採用したものの、その人物の職務遂行能力が足りておらず、ほかの社員の負担になってしまう可能性がありますし、業務の遅延も考えられます。
また、経歴詐称が明るみに出た場合、顧客や取引先の信用を失うおそれもあり、場合によっては会社側が責任を問われることもあります。
こうしたリスクを避けるために、採用担当者は応募者の経歴の真偽を確認しなければいけません。
応募者の経歴は提出してもらう書類で、ある程度まではチェックすることができます。
履歴書や職務経歴書などは応募者自身が書くものなので、真偽は確認できませんが、「卒業証明書」や「職歴証明書」といった書類で学歴や職歴をチェックすることが可能です。
「職歴証明書」とは応募者の前職企業に発行してもらう証明書のことで、前職の在籍期間や所属部署、役職や雇用形態などが記載されています。
この職歴証明書を履歴書や職務経歴書と付き合わせることで、経歴の詐称がないかどうかを確かめます。
職歴証明書の発行にはある程度の期間を要するため、履歴書や職務経歴書とあわせて、事前に提出してもらうように伝えておくとスムーズです。
また、職歴証明書の代わりに「退職証明書」を提出してもらうという方法もあります。
退職証明書は労働基準法第22条に基づき、使用者が労働者の求めに応じて交付しなければならない書類で、在籍期間や役職のほかにも、退職した年月日や退職事由などが記載されています。
面接で経歴詐称が発覚するケースもあります。
経歴詐称をしている応募者は自分で作った嘘の経歴をもとに話さなければならないため、具体的な質問に対して噛み合わない答えを返してしまったり、内容に食い違いが生じてしまったりします。
明らかにおかしい回答があった場合には、経歴詐称を疑いましょう。
経歴詐称の疑惑がある応募者には「リファレンスチェック」が有効です。
リファレンスチェックとは応募者が提出した情報の正確性を確かめるために、前職の会社に問い合わせる手続きのことを指します。
このプロセスを経ることで応募者の経歴の真偽がわかります。
リファレンスチェックは、外資系企業や幹部候補の中途採用などで行われており、リファレンスチェックのサービスを提供する専門の会社もあります。
ただし、一定のコストがかかってしまうため、すべての応募者にリファレンスチェックを行うのはあまり現実的ではありません。
また、応募者がSNSなどを利用していれば、過去の投稿から実際の経歴を探ることもできます。
こうしたSNSアカウントの特定を含め、候補者の経歴に虚偽や問題がないか調査することを「バックグラウンドチェック」と呼びます。
バックグラウンドチェックも調査を請け負う専門の会社が存在するので、場合によっては利用を検討しましょう。
さらに、採用後に提出してもらう「雇用保険被保険者証」で経歴詐称を見抜けるケースもあります。
雇用保険被保険者証は雇用保険に加入した証明書で、前職の会社名や退職年月日などが記載されているため、本人の履歴書や職務経歴書と食い違いがあれば、経歴詐称を疑いましょう。
もし経歴詐称が明らかになった場合、会社側は何らかの処分を下さなければいけません。
入社前に発覚した場合は「内定の取り消し」、入社後の発覚は「懲戒処分」を行う必要があります。
懲戒処分は、厳重注意を言い渡す「戒告」や、一時的な出勤の禁止を命じる「出勤停止」、そして、最も重い処分の「懲戒解雇」などがあります。
経歴詐称といっても、職歴の空白期間をごまかしているものから、未取得の資格を記載しているものまでさまざまです。
経歴詐称の内容や度合いに応じて、下すべき懲戒処分を決める必要があります。
「男女雇用機会均等法」は、職場における男女の均等な機会や待遇の確保を目的とした法律です。
同法では、婚姻、妊娠、出産などを理由とする不利益な取り扱いの禁止や、職場における妊娠・出産に関するハラスメント防止対策措置を講じる義務が定められています。
また、募集、採用、昇進などで性別を理由とした「間接差別」なども禁止されています。
間接差別とは性別以外の事由を要件としながらも、実質的に性別を理由とする差別になってしまうおそれがあるもののことです。
事業者であれば理解しておきたい、間接差別の要件について解説します。
男女雇用機会均等法では、性別に関係なく、すべての労働者に均等な機会および待遇を与えなければならないとしています。
したがって、同法の第5条と第6条では、募集や採用はもちろん、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種の変更、雇用形態の変更、退職、定年、解雇、労働契約の更新など、すべてのステージにおいての「性別を理由とした差別の禁止」を定めています。
たとえば、採用の際に男性を多く採用したいからといって、女性であることを理由に募集や採用の対象から外すことは認められていませんし、男性もしくは女性であることを理由に優先して昇進させることも許されていません。
こうした明らかな性別に基づく取り扱いの違いは「直接差別」と呼ばれます。
一方、表面上は平等な仕組みでも、運用の結果として実質的にどちらかの性別に不利益になってしまう制度や取り扱いがあります。
それが「間接差別」です。
男女雇用機会均等法の第7条では、間接差別を禁止しており、直接差別と同様に合理的な理由のない間接差別を行なった事業者はペナルティの対象となります。
もし男女雇用機会均等法に違反すると、厚生労働大臣もしくは都道府県労働局長から助言や指導、勧告を受ける可能性があります。
勧告に従わない場合は企業名が公表されるほか、厚生労働大臣から求められた報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりすると、20万円以下の過料が科せられる場合があるので注意してください。
では、どのような行為が間接差別に該当するのでしょうか。
厚生労働省令では、間接差別となる例の一つとして「労働者の募集や採用にあたり、労働者の身長、体重または体力を要件とすること」をあげています。
もし募集の条件に「身長170cm以上」という要件を設けた場合、表面上は男女差別には見えないかもしれませんが、実際には身長170cm以上を満たすのは男性がほとんどで、女性の募集を排除してしまうことになります。
このように直接的ではないけれども、実質的に差別になってしまっているのが間接差別です。
たとえば、重い荷物を運搬する業務において、業務を行うための最低限の体力の有無を採用の要件とする場合は、合理的な理由があるため間接差別とはいえません。
しかし、重い荷物を運搬するための設備や機械がすでに導入されており、業務において体力がそこまで必要ないにもかかわらず、体力や筋力の有無を採用の要件としている場合は、間接差別に該当する可能性があります。
ただし、募集する際の「ガッツのある人」「体育会系の人」といった抽象的な表現は「体力の有無を採用の要件としている」とまではいえません。
逆に、体力を要件にする合理的な理由がある場合は「○kg以上の荷物が持てる人」のように、具体的な数字を示すことが大切です。
また、厚生労働省令では「労働者の募集や採用にあたり、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること」も、一般的に女性が不利になるため、間接差別と定めています。
間接差別とならないためには、転居を伴う転勤に合理性がなければいけません。
たとえば、広域にわたって展開している支店や支社がないにもかかわらず、「転居を伴う転勤に応じることができることを要件」としていた場合は、間接差別にあたります。
こうした間接差別は、事業者側に差別の意図があったかどうかは関係ありません。
差別の意図がなくても、一方の性別に不利益が生じていた場合は、間接差別となります。
厚生労働省令であげられた2つの事例以外にも、個別に合理性が判断されるため、結果として間接差別に該当してしまうケースが存在します。
2024年5月には、一般職の女性が素材大手メーカーの子会社を相手取って起こした裁判で、ほぼ男性で占められた総合職にのみ家賃の8割を補助する社宅制度を認めているのは間接差別だという判決が出ました。
間接差別が認定されたのは、今回の裁判が初めてです。
社宅制度などは多くの企業が導入している制度でもあります。
事業者が認識していなくても、間接差別は起きているかもしれません。
法令違反や訴訟リスクを避けるためにも、事実上どちらかの性別だけに適用されている制度や取り組みがないか、現時点で確認しておくことをおすすめします。
人材は経営の資本であり、企業の将来的な成長に欠かせない要素であることが広く認識されるようになりました。
金融庁では、上場企業などを対象に、人材に関する情報を内外に向けて開示する「人的資本開示」を2023年3月期の決算から義務づけています。
一見、中小企業には無関係に思える人的資本開示ですが、今のうちに取り組んでおくことで、さまざまなメリットがあります。
人的資本開示の具体的な中身について把握しておきましょう。
会社を経営するためには、資本が必要です。
資本といえば一般的にお金や不動産、設備のことを指しますが、知的財産や顧客データ、ブランドや企業文化、そして従業員の持つ能力や知識、ノウハウなども資本です。
お金や不動産などの形がある「有形資本」に対し、これらの形のない資本のことを「無形資本」と呼びます。
従業員の持つ能力や知識などのいわゆる「人的資本」は無形資本のなかでも大切な役割を担っており、特に企業が事業活動を行ううえでは必要不可欠なものです。
また、近年は投資家が「環境(Environment)、「社会(Social)」、「企業統治(Governance)」に取り組んでいる企業へ投資する「ESG投資」が関心を集めており、この「社会」に含まれる人的資本もESG投資に関連する要素として、投資の判断材料となっています。
こうした人的資本の重要性の高まりに伴い、上場企業を中心とした大手企業約4,000社に対して、「有価証券報告書」に人的資本に関する情報を記載する「人的資本開示」が義務化されました。
有価証券報告書とは、上場もしくは一部の非上場の株式会社に対して提出が義務づけられている企業情報や経営情報を記載した報告書のことで、投資の判断材料になるよう一般にも開示されています。
金融庁が運営する電子開示システムの「EDINET」にアクセスすれば、誰でもこの有価証券報告書を閲覧することが可能です。
そして、金融商品取引法第24条に基づく内閣府令によって、2023年3月期の決算以降は、有価証券報告書に人的資本に関する情報も記載する必要が出てきました。
では、対象となる約4,000社の企業は、どのような人的資本に関する情報を記載すればよいのでしょうか。
記載する情報は、2022年8月30日に内閣官房の非財務情報可視化研究会が公表した「人的資本可視化指針」に参考例がまとめられています。
同指針では、7分野19項目に関する開示を推奨しており、企業ごとに開示する内容を精査して選ぶ必要があります。
政府が情報開示を求める7分野は以下の通りです。
1.人材育成
研修、リーダーシップ、人材確保・定着、スキル向上など
2.従業員エンゲージメント
従業員満足度など
3.流動性
採用、離職率、定着率、サクセッション(後継者育成)など
4.ダイバーシティ
多様性、属性による給与や福利厚生の差、育児休業など
5.健康・安全
労働災害の発生件数、医療・ヘルスケアサービスの利用促進など
6.労働慣行
児童労働・強制労働、賃金の公正性、福利厚生、組合との関係など
7.コンプライアンス
人権問題の件数、業務停止件数、懲戒処分の件数と種類など
選ぶ際には、経営のトップ層が中心となって議論し、選んだ理由を論理的に説明できるようにしておく必要があります。
日本の企業の数は約368万企業なので、約4,000社には含まれない99.9%以上の企業にとって、人的資本開示は無関係なことに思えるかもしれません。
しかし、社会的な人的資本の重要性は今後も高まっていくと見られており、将来的には中小企業にも人的資本開示が義務づけられる可能性があります。
将来の法改正に今から備えておくに越したことはありませんし、何より人的資本開示のために自社の人的資本を測定することで、人的資本の客観視が可能になり、これまで以上に人材を有効活用できるようになるという利点があります。
また、人的資本開示は採用の面でも役立ちます。
開示の準備段階で自社の人的資本について詳細を把握することになるため、必要な人材がわかり、社風に合う人材を採用できるようにもなるでしょう。
開示によって、求職者へアピールできるのもメリットの一つです。
たとえば、求職者にとって流動性の分野や健康・安全の分野などは、入社前にほとんど情報を取得できないという課題があります。
さらに、人的資本開示は大企業との取引にも有利に働きます。
大企業は取引先を選定する段階で、さまざまな判断基準を持っており、そのなかの一つに人的資本の情報も含まれています。
人的資本開示を行なっていない企業、人的資本について不透明な企業は、選定の段階で弾かれてしまう可能性もあります。
このように中小企業であっても、採用や取引の場面などで、人的資本開示が必要になるかもしれません。
人的資本可視化指針を確認しながら、まず自社ではどのような分野・項目での開示が重要になるのか、考えてみてはいかがでしょうか。
「労働基準法」は、労働者の賃金や就業時間、休日・休憩など、労働条件の原則や基準を定めた法律です。
使用者と労働者は対等な関係であるべきですが、経済的な力関係によって不平等になってしまう可能性が高いことから、同法によって最低限の基準が定められています。
しかし、この労働基準法の適用を受けないケースがいくつかあります。
労働基準法の適用除外となるのは、どのようなケースなのか、それぞれの要件を確認しておきましょう。
1947年に施行された労働基準法は、時代の変化に合わせて何度も改正を繰り返し、現在の形になりました。
2024年の改正では労働条件明示のルールが変更されています。
労働基準法は労働者を守るための法律で、賃金の支払い方や労働時間、休日の付与などについて、細かい規定が定められています。
賃金は原則、通貨で直接労働者に全額を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う必要がありますし、労働時間は原則として休憩時間を除いて1日8時間、1週間に40時間以上は働かせてはいけないことになっています。
また、休日についても、最低1週間に1日、もしくは4週間を通じて4日以上は与えないといけません。
そのほかにも、休憩時間や割増賃金、年次有給休暇、解雇・退職などについて規定が定められており、正社員だけに限らず、パートやアルバイトであっても労働基準法は適用されます。
しかし、原則、国家公務員の一部などを除くすべての労働者に適用される労働基準法ですが、一部のケースでは適用が除外されることがあります。
たとえば、林業を除く農業、畜産業、水産業に従事する労働者は、労働基準法第41条によって、労働時間、休憩・休日の規定から除外される旨が定められています。
これらの職業は自然や生き物を相手にするため、労働基準法の規定に適していないことがその理由です。
同じく第41条では、「管理監督者」についても労働時間、休憩・休日の規定から除外すると定めています。
管理監督者とは、「労働条件の決定や労務管理などにおいて、経営者と一体的な立場にある者」と定義されます。
近年は権限のない者を管理監督者とする「名ばかり管理職」が社会問題にもなりました。
管理職である「部長」や「工場長」などの役職をつければ自動的に管理監督者となるわけではなく、自身の出退勤に裁量権があり、その地位にふさわしい待遇が与えられている経営者と同じ立場の者が管理監督者に該当します。
つまり、経営者と同等の立場であるがゆえに、管理監督者は労働者ではないということになります。
さらに、秘書など、経営者や管理監督者の活動と密接に結びついている「機密の事務を取り扱う者」と、「監視や断続的業務に従事する者」も労働時間や休憩・休日の規定から除外されます。
「監視や断続的業務に従事する者」の監視とは、身体的・精神的緊張の少ない監視労働が中心となる業務のことで、交通関係の監視やプラントの計器類の監視、危険な場所での監視などは適用除外の対象外になります。
断続的業務とは、休憩は少ないものの手持ち時間が多い業務のことを指し、精神的な緊張を強いられる業務や通常の業務と断続的業務が混在する業務などは適用除外の対象外です。
また、「監視や断続的業務に従事する者」を適用除外にするためには、労働基準監督署長の許可を受けなければいけません。
気をつけたいのは、労働基準法第41条で適用が除外されるのは、労働時間や休憩・休日の規定のみということです。
深夜労働や年次有給休暇の規定など、それ以外の労働基準法の規定は適用されるので注意してください。
労働基準法第116条でも、一部のケースでの適用除外を定めています。
長い間船の上で暮らすことになる「船員」については、労働と生活が一体となり、労働基準法の規定にそぐわないため、労働基準法の一部が適用除外となります。
また、事業を共に行なっている「同居の親族」と、家事一般に従事する「家事使用人」については、労働基準法のすべてが適用除外になります。
つまり法令上、同居の親族と家事使用人は労働者ではないということです。
同居の親族に関しては、生活を共にする同居の親族は公私共に経営上の利害が一致しているため、一般的な労使関係に当てはめることができないのが適用除外の理由です。
ただし、同居の親族に加えて、1人でも他人を雇用している場合、その事業については労働基準法が適用されます。
その場合でも原則として同居の親族は労働基準法が適用されません。
なお、事業主の指揮命令に従っているのが明確であり、就労の実態がほかの労働者と同じで、賃金もこれに応じて支払われている場合には、同居の親族であっても労働基準法上の労働者として扱うことになる場合があります。
また、「家事使用人」についても、これまでは労働基準法が適用されてきませんでしたが、2022年に家事代行で働く女性の急死が労災と認められなかったことで、適用除外の規定が問題となりました。
厚生労働省が第116条に規定に関しては実態調査に乗り出す方針を固めたこともあり、将来的に労働基準法が適用される可能性もあります。
家事使用人が労働者か否かの問題については、今後の動きを注視していく必要があります。
経営者は会社を運営していくために、組織の方向性を示さなければいけません。
その方向性を示す際に大切なのが「コアバリュー」です。
コアバリューとは、従業員に共有したい組織の重要な価値観のことで、意思決定や事業活動における基準の一つにもなります。
そして、コアバリューを定めることで、その企業ならではの企業文化が形作られていきます。
経営者であれば覚えておきたい、コアバリューのメリットや決定のプロセスについて解説します。
企業はそれぞれが独自の価値観に基づいて経営を行なっていますが、その価値観を明確に示したものがコアバリューです。
コアバリューを定めて、すべての従業員に共有することで、組織としての方針や意思が統一され、統制のとれた事業活動が行えるようになります。
通常、人は年齢や経験を重ねることで誰もが自分なりの価値観を得ていきますが、組織の一員として仕事をするうえで、個人の価値観に基づいて行動していたのでは、言動や判断にブレが生じてしまいます。
また、人は普段から自分の価値観をしっかりと認識しているわけではありません。
仕事のなかで咄嗟の決断が求められる場面や、他者と交渉しなければならないシーンなどでは、自分の価値観に則った判断ができず、最初に考えていたものとは相反する結論にたどり着いてしまうこともあります。
会社に所属する従業員として働いてもらうためには、会社側がコアバリューとして価値観を示し、どのような場面でも企業の価値観を認識したうえで、その価値観に基づいた行動をしてもらう必要があります。
組織の価値観は、個人の価値観のように自然に醸成されていくものではなく、経営者など組織の舵を取る人間が明確に定めて、意図的に浸透させていくものです。
特に重要な価値観をコアバリューとして定めて共有するからこそ、すべての従業員が一貫した活動をできるようになります。
また、コアバリューがしっかりと共有されていれば、従業員が個別に判断して動けるようにもなります。
コアバリューを把握している従業員は、会社の価値観にそぐわない言動を行いません。
従業員一人ひとりが適切に判断できれば、上司からの指示をあおがなくてもよく、業務の効率化にもつながります。
組織内で価値観が統一されているため、業務上の判断を巡って衝突が起きにくくなりますし、意見が食い違うことも少なくなります。
価値観が明確に示されているため、採用の場面でも自社にマッチする人材を探しやすく、価値観が合わない人を雇用するミスマッチを防ぐことが可能です。
コアバリューによって示された価値観に共鳴する人が集まるということは、その企業ならではの企業文化が醸成されるということです。
自然発生的に企業文化が形作られるケースもありますが、コアバリューを定めることで、意図した企業文化を作り上げられるようになります。
企業の価値観を示すものとして、「企業理念」があります。
コアバリューとよく似た概念ですが、企業理念は長期的なビジョンやミッションなどのことを指し、外部に向けて宣言するものです。
対して、コアバリューは「おもてなしの心」や「チャレンジ精神」、「創意工夫」や「チームワーク」など、社内の従業員に向けた行動指針といえるでしょう。
コアバリューを定めるためには、組織の創業者や経営者が会社を創設した目的を振り返ったり、将来的な展望などを考えたりしながら、たたき台となる原案を作成します。
コアバリューは従業員の行動の基準になるものなので、数があまり多過ぎると、覚えられないでしょう。
原案を作る際は、多くても10個程度にしておきましょう。
原案には「こういう組織にしたい」という経営者の思いが込められていますが、それがそのままコアバリューになるわけではありません。
コアバリューはすべての従業員に共有するものであり、賛同してもらうものです。
経営者から押し付けられたコアバリューでは意味がありません。
原案を従業員に提示して、できるだけ多くの意見を募り、必要であれば修正を加えていきます。
そして、最終的に完成したコアバリューをすべての従業員に周知します。
一斉メールや全体ミーティングなどで経営者が繰り返し、コアバリューを示していくことが大切です。
コアバリューはその企業の価値観を示し、企業文化を形作るものです。
もし、まだコアバリューを定めていないのであれば、自分や会社がどのような価値観に基づいて動いているのか、考えるところから始めてみましょう。
スマートフォンアプリなどを介して、空いた時間に働く「スキマバイト」と呼ばれる働き方が広まっています。
働く側にとっては自分の隙間時間にあわせて働くことができ、事業者にとっては必要なタイミングで必要な数の人材を確保できるというメリットがあります。
人材不足解消の助けになると大きな期待が寄せられているスキマバイトですが、事業者が利用する際には、いくつか注意しなければならないポイントもあります。
また、今や当たり前になったギグワークとは、どのような部分で異なるのでしょうか。
スキマバイトの基礎知識と、企業が利用する際の注意点などを解説します。
スキマバイトとは、1日や数時間といった短い期間の雇用契約を結んで働くアルバイトのことを指し、2018年にリリースされた「タイミー」をはじめ、「シェアフル」や「ショットワークス」など、スキマバイト専用のアプリの誕生によって爆発的に広まりました。
求人側の事業者は、これらのアプリに人手が必要な日付や時間などの条件を登録して、働き手とマッチングすることで、比較的容易に人材を確保できます。
人材不足に頭を抱えている事業者側にとっては、非常に頼りになるサービスであり、現在タイミーだけでも2023年時点で累計66,000社が利用しているというデータもあります。
スキマバイトとして働く人の数を正確に把握することはむずかしいですが、専用アプリの利用者は約2,200万人といわれています。
その働き方は「スポットワーク」とも呼ばれ、「Uber Eats」などに代表される「ギグワーク」という働き方と共通する部分が少なくありません。
近年、急速に広まったギグワークもスキマバイトも、空き時間に働けるうえに、即日報酬を受け取れるスポットワークの一種ですが、非常によく似た部分がある一方で、大きく異なる部分もあります。
それが契約形態です。
多くのギグワーカーが業務を個人事業主として請け負う「業務委託契約」であるのに対し、スキマバイトのワーカーは通常のパートやアルバイトと同様の「雇用契約」になります。
雇用契約を結ぶということは、1日や数時間の労働であったとしても、スキマバイトには労働基準法が適用され、事業者側は賃金や労働時間などについて、ルールに基づいた対応を行わなければならないということです。
ちなみに、雇用契約は正式な書面を交わさなくても、アプリ上での労働条件の明示および同意で成立します。
事業者がスキマバイトを雇用する際に気をつけたいのが、適正な労働時間の把握です。
スキマバイトへの賃金は原則として1時間単位の時給で計算するため、特に労働時間は正しく把握しておく必要があります。
たとえば、事業場内において作業着や制服などに着替えさせる場合は、着替えの時間も労働時間に含まれます。
過去には「着替えが労働者の任意である場合は、着替え時間は労働時間に含まれない」という判例もありましたが、スキマバイトに対して作業着や制服の着用を義務づけている場合は、労働時間として取り扱う必要があるので注意しましょう。
ほかにも、業務に際して先輩などの作業を見学させる時間や、準備や待機の時間、片付けの時間なども、すべて労働時間に含まれます。
そして、1時間に満たない端数の労働時間の取り扱いにも注意が必要です。
事業場によっては、10分や15分単位で計算し、それ以下の時間を切り捨てているところもありますが、原則として時給は1分単位で計算しなければいけません。
なお、1日単位での端数の切り捨て処理は認められていないため、1分以上の端数を切り捨てる行為は労働法違反となります。
また、スキマバイトは通常のアルバイトと同じなので、社会保険や雇用保険、労災保険の対象となりますが、社会保険も雇用保険も1週間の所定労働時間が20時間以上であることが被保険者となる要件の一つであるため、そもそも1日ごとの契約となるスキマバイトは要件に該当しません。
ただし、労災保険に関しては、スキマバイトでも適用され、もし労災が起きた場合は、労働基準監督署に労災申請を行いましょう。
こうした労災が起きないように、スキマバイトを雇用する際には、労働安全衛生法に基づき、その業務に関する安全または衛生に関する教育を行う必要があります。
ほかにも、スキマバイトに対して、あらかじめ労働条件の明示と就業規則の周知を行うことが事業者に義務づけられています。
労働条件の明示は、就業場所や業務、始業・終業時刻、賃金などの項目を記載した書面を労働者に交付しなければならない労働基準法第15条の「労働条件の明示ルール」に基づくもので、一部のアプリは、この書面を作成して交付できる機能も備えています。
明示した条件と実際の労働が異なる場合は、労働法違反となります。
今後もスキマバイトの市場は拡大していくと見られていますが、「名前ではなくアプリ名で呼ばれる」「契約と異なる業務をさせられた」など、働き手側から問題点を指摘する声もあがっています。
また、アプリのなかには双方を評価する機能が備わっており、報復評価を恐れて正当な評価ができないなどの問題も出てきています。
事業者がトラブルなくスキマバイトを導入するには、専用のマニュアルを作成するなど、適正な受け入れ体制の整備が必要不可欠です。
人手不足で困る事業者にとってスキマバイトは有効な手段となるからこそ、守るべき法律や問題点をしっかりと理解して、活用していきましょう。
同じ仕事に就いていても、モチベーションや仕事への向き合い方は人それぞれです。
経営者であれば、すべての従業員が主体性を持ち、やりがいを感じながら働いてもらいたいと考えているのではないでしょうか。
もし、自社の従業員が仕事に対して「やらされ感」や「退屈感」を感じているようであれば、意識や行動を主体的に変化させる『ジョブ・クラフティング(Job Crafting)』の導入を検討してみましょう。
仕事への活力を取り戻してもらう、ジョブ・クラフティングの具体的な手法について解説します。
『ジョブ・クラフティング』は、2001年にアメリカ・イェール大学の研究者であるエイミー・レズネスキーとミシガン大学のジェーン・E・ダットンが提唱した概念です。
働き方や人間関係を工夫することにより、やりがいや満足感を感じながら働けるようになる手法を指します。
仕事に対する考え方は十人十色です。
あくまで生活のためと割り切り、与えられた仕事を淡々と遂行する人もいますし、自分の仕事にプライドを持ちながら、目の前の仕事に邁進する人もいます。
そのなかでも、組織の成長に大きく貢献するのは、やりがいを感じ、目標のために主体性を持って仕事に取り組む人ではないでしょうか。
ジョブ・クラフティングは、今まで仕事をやらされていると感じていた人を「やりがいを感じながら主体的に働く」ように変えるもので、日本でも多くの企業が促進しています。
これまで会社の命令でしか働いてこなかった従業員がジョブ・クラフティングによって、やりがいを感じながら主体的に働くようになれば、組織や仕事へのエンゲージメントも高くなるでしょう。
仕事への意欲とストレスの度合いが反比例するという研究結果も出ており、ジョブ・クラフティングで仕事にやりがいを見出すことでストレスが減り、心身の健康にもよい影響が出ることがわかっています。
ジョブ・クラフティングを従業員が実施するためには、企業側のサポートが欠かせません。
ジョブ・クラフティングについての研修やセミナーの開催はもちろん、従業員のやる気を引き出す新しいポストの創設や、職場環境の整備、上司からの適切なフィードバックなども効果的です。
ジョブ・クラフティングの研修プログラムは、従業員を複数人のグループに分け、業務に対して実践可能な工夫を話し合い、策定した計画に沿って実践していきます。
大切なのはプログラムのなかで、一人ひとりの従業員がみずから仕事にやりがいを見出すための工夫を考えることにあります。
ジョブ・クラフティングでは、仕事のやり方を工夫する「作業クラフティング」と、人との関わり方を工夫する「人間関係クラフティング」、そして、考え方を工夫する「認知クラフティング」の3つによって、個人の仕事に対する主体性を引き出します。
日頃から仕事に追われて従業員が「自分のやりたい仕事ができない」「思うように仕事が進まない」のであれば、業務の優先順位をつけたり、スケジュール管理の方法を見直したりといった「作業クラフティング」で、仕事をより充実したものにすることが可能です。
人間関係がやる気を引き出すネックになっているのならば、職場の同僚や上司に積極的にアドバイスを求めたり、取引先とのコミュニケーションを増やしたりする「人間関係クラフティング」で、他者と良好な関係を築き、働きがいを感じられるようになります。
そもそも「仕事に関心が向けられない」「会社における自身の存在意義がわからない」という従業員がいるのであれば、仕事を自分の興味関心のあるものと結びつけたり、自身の仕事を会社にとって価値のあるものととらえ直したりするなど、「認知クラフティング」で考え方を変えることで、自分の仕事に価値を感じられるようになるでしょう。
まずはすべての従業員に対して、ジョブ・クラフティングを周知し、中身を理解してもらうことが大切です。
他者の考えを聞くことで、自分が実践できるジョブ・クラフティングの参考にできます。
全従業員が話し合いながら、ジョブ・クラフティングを実践できる環境の整備を進めていきましょう。
製造・加工業者や問屋から原材料の提供を受け、自宅で物品の製造や加工などを行う働き方のことを『家内労働』と呼びます。
いわゆる「内職」を行う家内労働者は、製造・加工業者をはじめとした委託者と雇用関係にないため、労働基準法が適用されません。
そのため、家内労働者を保護し労働条件の向上と生活の安定を図るため、1970年に「家内労働法」が施行されました。
家内労働法では、家内労働者に対する工賃の支払いや、安全および衛生の確保などについて定めています。
委託者が遵守しなければならない、家内労働法の規定について解説します。
1973年度には全国に約184万人いた家内労働者も、社会状況の変化などから近年は減少傾向にあり、2023年10月時点で9万4,262人となっています。
家内労働者のうちの9割近くが女性で、業種別では「その他」を除くと、「繊維工業」が2万1,204人と最も多いことがわかっています。
家内労働者はフリーランスやギグワークなどに比べると、総数は少ないものの、製造業を支える大切な役割を担っており、人手不足に悩む委託者にとっても重要な存在です。
新規で家内労働者に作業を委託したい場合は、一般的な求人サイトなどのほか、各自治体の担当課や情報提供窓口を介して、家内労働者を募集することも可能です。
ただし、仕事を委託するのであれば、「家内労働法」について理解を深めておかなければいけません。
家内労働者を保護するために制定された家内労働法は、委託者に対するさまざまな義務を定めています。
その一つが「家内労働手帳」の交付です。
家内労働手帳とは、家内労働者の氏名、委託者の氏名、営業所の名称・所在地、工賃の支払い方法、その他の委託条件などが記載された手帳のことで、委託者は家内労働者にこの手帳を交付する義務があります。
委託者は原材料を家内労働者に受け渡すタイミングで、その都度、委託業務の内容、工賃単価、工賃の支払期日、納品の期日などを手帳に記入し、完成した物品の受け取りや工賃を支払うタイミングで、受領した物品の数量や受領年月日、工賃支払額などを記入します。
こうして家内労働者とのやり取りを記録に残すことで、無用なトラブルを防ぐことが期待できます。
家内労働者は委託者から物品の提供を受けて、物品の製造加工などを行うことが前提となるため、たとえば、運送や建築などの仕事を受託している人は家内労働者にはなりません。
委託者についても、運送業者や建築業者などは委託者に該当せず、あくまで物品を提供して、業務の目的となる物品の製造加工を依頼していることが委託者の条件となります。
もし、新たに委託者となった場合は、所在地を管轄する都道府県労働局長に「委託状況届」を提出します。
委託状況届とは、事業の種類、営業所の名称・所在地、委託している業務の内容、家内労働者や補助者の数などを記載したもので、委託者となったときのほかに、毎年4月30日までに4月1日現在の状況について届け出る必要があります。
また、家内労働者または補助者が委託した業務を原因として負傷したり疾病にかかったりして、4日間以上の休業もしくは死亡した場合は「家内労働死傷病届」を提出しなければいけません。
2023年10月時点で、危険有害業務に従事する家内労働者は7,832人で、家内労働者に占める割合は8%となっています。
家内労働法では、仕事による災害を防止するため必要な措置を取ることが義務づけられており、委託者は家内労働者の安全および衛生の確保に務めるようにしましょう。
そして、家内労働法では委託者が家内労働者に支払う工賃についても定めています。
工賃については、特定の物品について一定単位ごとに最低工賃額が定められており、その額を下回る工賃での委託は無効となるので注意してください。
また、工賃は納品から1カ月以内に、原則として全額を現金で支払う必要がありますが、家内労働者の同意があれば、郵便為替の交付や銀行口座などへの振り込みといったかたちで支払うことも可能です。
家内労働者は高い技能を持ち、長年同じ仕事を委託されている人も少なくありません。
やむを得ず委託を打ち切らなければならない際は、家内労働者が別の委託者を探せるように、打ち切りまでに十分な期間を設けるようにしましょう。
『ガスライティング(Gaslighting)』とは事実の捻じ曲げや矮小化などの手口によって、相手の判断や認知が間違っていると思わせるように仕向ける心理的虐待のことで、近年は職場でも広がりを見せています。
このガスライティングを用いると、被害者は、加害者に心理的に操られ、「仕事ができないのは自分のせいかもしれない」と思わされてしまいます。
しかも、ガスライティングは露見しづらく、被害を受けている本人も虐待だと気づきづらいという特徴があります。
職場の安全を守るために知っておきたい、ガスライティングの手口や対策などについて解説します。
『ガスライティング』という心理的虐待
労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止法)によって、2022年4月1日から中小企業においてもパワーハラスメントを防止するための措置が義務づけられました。
しかし、どんなに防止策を講じても、巧妙化したパワハラや嫌がらせは、外部から気づきにくいという特徴があります。
このような巧妙化したパワハラの一つに、『ガスライティング』があります。
もともとは家庭内での精神的DVとして扱われることの多いガスライティングですが、近年は職場においても、パワハラや嫌がらせの一種として認識されてきています。
そもそもガスライティングはアメリカ発祥の言葉で、後に映画化もされた1938年の戯曲「ガス燈」が由来とされています。
この戯曲は、1870年のロンドンを舞台にDV気質の夫から、事実ではない物忘れや盗癖を指摘された妻が精神的に追い詰められていくという内容です。
ここからガスライティングは、相手の判断や認知をコントロールする心理的虐待の名称とされるようになりました。
こうした心理的虐待は昔からありましたが、2010年代後半の欧米で再び注目を集めるようになりました。
また、イギリスでは2015年の法改正で、家族や親密な関係性にある人を操るまたは威圧的な行為が犯罪であると定めら、この行為にはガスライティングが含まれると解釈されています。
多くの人がガスライティングに関心を向けたのは、情報操作やディープフェイク、陰謀論といったワードが広まり、事実の認知を歪曲しようとする時代的な潮流に対する警戒心が背景にあったとする分析もあります。
職場におけるガスライティングは、特に上司と部下などの上下関係があるときに起きやすく、加害者である個人や集団のことを「ガスライター」と呼びます。
ガスライターの目的は、被害者を「組織から孤立させる」「職場から追い出す」「支配下に置く」などさまざまで、あらゆる手を使いながら、周りの人たちはもちろん被害者本人にもわからないよう、心理的に追い込んでいきます。
ガスライターの手口を把握しておくことは、ガスライティングを防ぐうえでもっとも重要なポイントです。
たとえば、ガスライターはターゲットとなる被害者のミスを捏造したり、発言を毎回否定したりします。
被害者がそのことを指摘すると、「そんな事実はない」「嘘をつくな」「普通じゃない」などと否定し、被害者に「自分が間違っていたかも」と思わせようとしてきます。
身に覚えのないミスや噂を指摘され続けた被害者は、次第に「自分の被害妄想なのでは」と不安になり、精神的に追い詰められていきます。
こうした「事実の捻じ曲げ」は、ガスライターの常套手段です。
また、心理的な手口以外に、被害者の私物を隠したり、勝手にパソコンの設定を変えたりするなど、小さな迷惑行為で被害者にストレスを与え続けるのもよくある手口です。
自分の認知を揺さぶられて不快な状況が続くと、判断力などが落ち、ガスライターにとってコントロールしやすい状況になります。
さらに、ガスライターは被害者が反発してきたら、嘘や噂話などによって周囲の人に、逆にガスライターである自分が被害者であるように印象づけます。
周囲の人を味方につけたガスライターが、集団で被害者を非難するようになるケースも少なくありません。
そして、被害者から反発された際に「そんなの大げさだよ」「たいしたことじゃない」と問題を矮小化しようとするのもガスライターの特徴です。
特に上司と部下などの関係にあり、被害者が経験の浅い新人であれば「そうかもしれない」と丸め込まれてしまいます。
ガスライティングは、被害者にとってうつ病の発症や離職にも至る虐待行為で、組織にとって害でしかありません。
大切なのは被害者自身がガスライティングを受けていることを認識し、周囲に相談することです。
パワハラ防止法では職場におけるパワハラの相談窓口の設置も義務化されました。
事業者はガスライティングについて具体的な事例と共に、全従業員へ周知を図り、パワハラの防止策と同等の措置を行うことが重要になります。
2024年5月に「育児・介護休業法」および「次世代育成支援対策推進法」が改正され、2025年4月1日から、段階的に施行されます。
今回の改正では、働く男女が仕事と育児・介護を両立するため、子どもの年齢に応じた柔軟な働き方を実現する措置を講じるよう事業者に求めています。
そのため、事業者においては新たな制度の創設や対応が必要になる場合があり、従業員への周知や意向確認も行わなければいけません。
改正の内容をよく理解して、自社がどのような義務を負うことになるのか確認しておきましょう。
日本では、多くの働く男女が仕事と育児・介護の両立に課題を抱えています。
厚生労働省が公表した女性正社員へのアンケート調査では「妊娠・出産を機に退職した理由」の1位が「仕事と育児の両立がむずかしくて辞めた」(41.5%)でした。
また、2021年度の育児休業取得率は、女性が約85%なのに対し、男性は約14%で、この数年で大きく上昇しているものの、いまだ低水準です。
こうした現状を踏まえ、働く男女がこれまで以上に仕事と育児・介護を両立できるよう、2024年5月24日に育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法の改正が国会で成立しました。
改正法は一部を除いて、2025年4月1日から施行されます。
育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法(以下、改正法)の改正の柱となるのは、以下の3点です。
(1)子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
(2)育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
(3)介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
今回は、特にすべての事業者に関係する(1)の「子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充」について、解説します。
近年は、子どもの年齢に応じて「フルタイムで残業をしない働き方」や「フルタイムで柔軟な働き方」を希望する労働者の割合が高くなっています。
これを受けて、改正法では「残業免除」の対象が拡大されました。
これまでは3歳未満の子どもを養育する労働者が、事業者に請求した場合に所定外労働の制限(残業免除)の対象となっていました。
改正後は小学校就学前の子どもを養育する労働者まで、その対象となります。
また、改正法の施行によって、事業者は、3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に対して、職場のニーズを把握したうえで、柔軟な働き方を実現するための措置として、以下のなかから2つの措置を講じる必要があります。
労働者はその2つのなかから1つを選択して利用することができます。
そして事業者は、選択した措置について、個別の周知・意向確認を行う必要があります。
・始業時刻等の変更
・テレワーク等(10日/月)
・保育施設の設置運営等
・新たな休暇の付与(10日/年)
・短時間勤務制度
さらに、3歳未満の子どもを養育する労働者がテレワークを選択できるような措置を講じることが事業者の努力義務になります。
これらは、すべて労働者の「フルタイムで残業をしない働き方」や「フルタイムで柔軟な働き方」を実現するためのものです。
改正法では、子どもの看護休暇も見直されることになりました。
看護休暇とは、1年度のなかで、子ども1人につき5日を限度に看護休暇を取得できるというもので、これまでは小学校就学前の子どもを持つ労働者が対象でしたが、改正法では小学校3年生修了までに範囲が拡大されました。
さらに、看護休暇を取得する事由についても、これまでの子どもの「病気・けが」「予防接種・健康診断」に、「感染症に伴う学級閉鎖等」と「入園(入学)式・卒園式」が新たに加わります。
つまり、労働者は子どもの学級閉鎖や入園式・卒園式などでも看護休暇を取得できるようになるということです。
また、これまでは雇用された期間が6カ月未満の労働者は、労使協定の締結によって看護休暇の取得の対象から除外できましたが、改正後は除外できなくなります。
労使協定の締結によって看護休暇の取得の対象から除外できるのは、週の所定労働日数が2日以下の労働者だけに限られます。
事業者には、子どもを持つ労働者に対して、これまで以上の配慮が求められるようになります。
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮も事業主の義務になりました。
これは、労働者が妊娠・出産を申し出たタイミングや、子どもが3歳になる前までのタイミングで、事業者は面談や書面交付などの方法により、対象の労働者に意向を聴取する必要が生じるというものです。
今回の改正法は、すべての子どもを持つ労働者と、その労働者を雇用している事業者に関係するものです。
厚生労働省のホームページなども確認しながら、必要な措置を講じるようにしましょう。
人手や時間などのリソースが足りず、採用業務に手が回らない場合は、『採用代行(RPO)』サービスを提供する会社に任せる方法もあります。
採用代行は、忙しい企業の代わりに採用業務を担当してくれるサービスです。
採用代行会社はたくさんあり、初めて依頼する場合はどの会社を選べばよいのか迷ってしまうこともあるでしょう。
採用代行サービスにはメリットだけでなく注意すべき点もあり、導入を検討する際は慎重になることが大切です。
採用業務に困っている企業に向けて、費用の相場や、提供会社を選ぶ際のポイントなどを説明します。
採用代行は、1970年代にアメリカで生まれたサービスで、採用のアウトソーシングを指す「Recruitment Process Outsourcing」の頭文字を取り、「RPO」とも呼ばれています。
アメリカでは2000年代の景気後退により、多くの企業が人事の採用担当者を手放さざるを得なくなり、採用業務をアウトソーシングできるRPOに注目が集まりました。
一方、日本では採用代行に特化した専門会社という位置づけで、1990年頃に採用代行のサービスを取り扱う企業が誕生しました。
社会状況の変化に応じて、次第に採用代行の需要は増していき、近年は売り手市場へのシフトや、採用活動の長期化などにより、ますます採用代行サービスのニーズは高まってきています。
採用の現場は就職氷河期を経て、一時売り手市場になるも、2008年のリーマンショック以降は就職難の状態が続いていました。
再び売り手市場に転じたのは2014年頃で、途中コロナ禍の影響などもあったものの、現在も売り手市場は続いています。
新卒採用での指標となる2025年の大卒求人倍率は1.75倍で売り手市場を示しており、求職者の数よりも企業の求人数が多いことがわかります。
売り手市場においては人材の確保も容易ではありませんし、採用活動に割かなければならないリソースも増していきます。
特に近年は、1年を通して採用活動を行う企業が増えたことで採用活動が長期化していることに加え、SNSや自社サイトなど、ハーローワークや求人サイトだけではない採用方法の多様化も、採用担当者の負担が増した要因といわれています。
採用代行会社に一連の採用業務を任せてしまうことで、負担の軽減はもちろんですが、採用業務の質の向上も期待できます。
採用代行会社は、採用業務に関する豊富なノウハウがあり、採用計画の立案から、募集要件の策定に内定者へのフォローまで、一連の採用活動を高いレベルで遂行する力が備わっています。
「募集に人が集まらない」「内定辞退者が多い」「採用しても定着しない」など、自社における採用業務の課題も解決できるかもしれません。
採用業務の改善に役立つアドバイスを受けられるのは、採用代行サービスを利用するうえでの大きなメリットといえます。
サービスを提供する会社にもよりますが、一般的に採用代行を利用する場合は、代行会社に立ててもらった採用計画に沿って求人募集を行なってもらい、書類選考や面接の実施といったプロセスをたどります。
また、求人票の管理や説明会の企画運営、応募者の管理や面接のスケジュール調整、筆記試験や適性検査の実施、合否連絡や内定者研修など、さまざまな採用に関する業務をお願いすることが可能です。
ただし、これらの採用業務を外部に任せるということは、採用に関するノウハウが社内に蓄積しないということでもあります。
また、外部の会社であるため、適切なコミュニケーションを取って意思疎通を図らないと、求めていない人材が集まってしまうなど、認識のすれ違いが起きてしまうこともあり得ます。
こうしたメリットとデメリットの両方をよく理解したうえで、採用代行サービスを利用しましょう。
採用代行会社を選ぶ際は、その会社が依頼したい業務内容に対応できるかどうかについて、しっかりと確認しておきます。
多くの採用代行会社は幅広い採用業務を代行することができますが、それぞれ得意とする分野が異なります。
たとえば内定辞退の防止に力を入れたいのであれば、内定者のフォローに定評のある会社を選ぶなど、会社の特徴や強みを把握しておくことも大切です。
また、かかるコストも採用代行会社を選ぶうえで大切な基準となります。
依頼先の企業や依頼する内容、契約や期間によって大きく異なりますが、エントリー受付や応募者管理などの基礎的な採用業務だけを依頼するのであれば、月額契約で5〜10万円が相場といわれています。
採用業務を一括で任せたい場合は、一般的に30万円以上が目安となります。
採用業務にかけられる予算には限りがあるため、予算に見合った範囲の業務を依頼するようにしましょう。
採用代行会社は、多忙な人事担当者に代わってさまざまな採用業務を対応してもらえる心強い存在ですが、あくまで外部の協力会社です。
最終的にその応募者を採用するかどうか、合否に関わる部分の判断は自社で行うようにしましょう。
慢性的な人手不足のなかで優秀な人材を獲得するためには、採用代行サービスの活用も視野に入れながら、継続的に採用活動を行なっていくことが重要です。
労働基準法では、使用者は、労働時間が一定時間を超える労働者に対して休憩時間を与えなければならないと定めています。
この休憩時間は、従業員が完全に労働から離れて、心身の疲れを回復させるためのものなので、基本的には従業員の自由にさせなければいけません。
これを「自由利用の原則」といいます。
では、従業員が休憩時間中に外出する場合も、自由利用の原則が当てはまるのでしょうか。
休憩時間の自由利用に関する考え方について説明します。
従業員の労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与える必要があります。
この休憩時間中は、警察官や消防官などの特殊な職種を除き、基本的にはどんな仕事であっても、労働から離れて、自由でなければいけません。
労働から離れるとは、使用者の指揮命令下から完全に離れるという意味でもあります。
解釈を巡ってよく問題になるのが、休憩時間中の「電話番」です。
たとえ、電話がかかってこなかったとしても電話のために待機している状態は、使用者の指揮命令下から完全に離れているとはいえず、休憩時間には該当せず、労働時間に該当すると考えられています。
従業員が電話番をしていた時間は労働時間として賃金が発生しますし、別で休憩時間を与える必要もあります。
電話番や店番など、業務に従事していないものの、もし何かあればすぐに対応しなければならない「待機時間」や「手持ち時間」は、基本的に労働時間として扱われるので注意してください。
当然、休憩時間中の顧客対応も労働時間に含まれます。
一方で、「自由利用の原則」があるからといって、従業員は休憩時間中に何をしてもいいというわけではありません。
休憩時間は、あくまで休憩が目的であり、疲労や集中力の低下などによって引き起こされる労働災害を防ぐという意味合いがあります。
したがって、飲酒や過度な運動などは休憩にはそぐわない行為ですし、職場の規律を乱したり、ほかの従業員の休憩を妨害したりする行為も認められるものではありません。
このような管理上および社会通念上問題となる行為を禁じる目的であれば、休憩時間の過ごし方について、使用者が一定の制限を加えることもできます。
では、休憩時間中の外出については、どのように考えればいいのでしょうか。
基本的に自由利用の原則があるため、従業員が休憩時間中に外出したとしても、使用者がこれを禁じることはできません。
ただし、休憩時間といっても、使用者の拘束下にあるため、一定の要件のもと外出を制限したとしても、ただちに労働法違反になるわけではありません。
事業所のなかにしっかりと休憩できる施設が整っており、さらに合理的な理由があれば、従業員の外出について、最小限の制限を加えることが認められています。
合理的な理由は、事業場の規律を保持するうえで必要とされるものに限られ、「外出されてしまうと事業所に人がいなくなり、来客の対応ができない」などの理由で外出を禁じている場合は、労働法違反となります。
合理的な理由は、あくまで業務以外の理由でなければいけません。
また、外出を許可制にしたとしても、合理的な理由がなければ不許可にすることはむずかしいでしょう。
どうしても外出に制限を加えたければ、合理的な理由があることは前提のうえで、許可制ではなく「届出制」にして、従業員が外出する際は上長の承認を受けるようにするのが現実的です。
基本的には外出自体に厳しい制限を課すことはできませんが、就業時間に間に合わないほどの遠出や、ギャンブル施設への立入り、宗教の勧誘や政治活動、ビラ配布や物品の販売などは、事業場の規律を保持する目的で禁じることができます。
また、原則として、従業員は休憩後すぐに業務が始められる状態にしておかなければいけません。
外出して職場から離れて過ごすことは、気分転換やリフレッシュになりますし、仕事の効率アップも期待できます。
買い物や役所での用事を休憩時間中に済ませたいという従業員の要望もあるでしょう。
たとえ合理的な理由があったとしても、外出の制限には慎重にならなければいけません。
労働基準法違反とならないよう、本当に外出制限が必要なのか、必要であるのならばなぜ必要なのかをはっきりとさせ、ルールを運用していきましょう。
定時に仕事を終えて退社する『ノー残業デー』を設定している企業があります。
ノー残業デーとは、会社全体もしくは部署ごとに、残業をせずに退社する日のことを指し、一般的には1週間のうちに1〜2日ほど設定されるケースが多いです。
人件費の削減や業務の効率化など、さまざまなメリットがある一方で、ノー残業デーが形骸化してしまっている企業も少なくありません。
ノー残業デーを効果的に運用するための方法について説明します。
長時間労働の是正は企業にとって喫緊の課題
2023年4月1日から、中小企業では月60時間を超えた残業の割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。
これまで大企業に限られていた割増賃金率が中小企業にも適用された形となります。
この割増賃金率の上昇は、長年多くの会社で続いていた長時間労働を抑制し、労働者のワーク・ライフ・バランスを実現するための重要な施策です。
労働時間の短縮は「働き方改革」を進めるうえでの大きな課題となっており、各企業がそれぞれ努力して、長時間労働の是正に取り組んでいかなければいけません。
そのための具体的な取り組みの一つが『ノー残業デー』です。
ノー残業デーは、特定の日だけは残業をさせずに定時で従業員を退社させる制度で、長時間労働の是正にとても効果があるとされています。
ノー残業デーを導入している会社の多くは、区切りが付けやすい週の真ん中である水曜日をノー残業デーに設定しているようです。
また、国家公務員も水曜日を全省庁一斉定時退庁日(ノー残業デー)にして、職員の定時退社を促しています。
ノー残業デーを導入することで、従業員は家族との時間やプライベートの時間を確保でき、リフレッシュして翌日以降の仕事と向き合うことができます。
心身の健康の増進も期待できるでしょう。
また、ノー残業デーは定時で退社する必要があるため、優先順位の見直しなどによる業務の効率化を図る効果も期待できます。
業務の効率化はそのまま組織における生産性の向上にもつながります。
ほかにも、人件費の抑制や、採用の際のアピールポイントになるなど、さまざまなメリットがあり、6〜7割の企業でノー残業デーが導入されています。
長時間労働の抑制に役立つノー残業デーですが、導入には入念な制度設計が必要です。
ノー残業デーを導入しても、定時を超えても会社に居残る人がいたり、仕事を自宅に持ち帰ったりする人が出てしまうと、結局は制度が形骸化してしまい、ほとんど意味がありません。
また、業務の効率化ができていないと別の日の残業が増えてしまい、上長である管理職に仕事のしわ寄せが行ってしまうケースも考えられます。
ノー残業デーを形骸化させずに運用するためには、まず制度を導入する意義をしっかりと社内で共有し、すべての従業員に周知する必要があります。
長時間労働を抑制するという目的意識を全員に持ってもらうことで、制度の運用もしやすくなるでしょう。
また、定時で退社するための業務の効率化についても、個人に任せるのではなく、組織全体の課題として考えていくことが大切です。
ノー残業デーを設定した曜日に定時で退社できない部署や人がいたとしたら、業務量が一部に偏っている可能性があります。
ノー残業デーの導入は、業務の負荷状況を可視化し、再配分するきっかけにもなります。
誰もが定時で退社できるように、業務の平準化と再配分を行うことが、ノー残業デーを成功させるカギとなります。
ただし、部署の繁忙期や個人の業務内容などによって、どうしても仕事量が増減するタイミングなどは異なってくるでしょう。
もし、仕事量や取引先との兼ね合いなどでどうしても残業しなければならない場合は、全社で一斉にノー残業デーを実施するのではなく、一部の部署や個人単位でそれぞれ別の日に定時退社する「ローテーション方式」を導入するという方法もあります。
ノー残業デーを導入している企業によっては、定時を過ぎると強制的に消灯したり、オフィスを施錠したりするなどの強制的な手段で、残業を防いでいるところもあります。
しかし、残業が発生する根本的な原因を把握していないと、従業員は自宅や別の場所でサービス残業をすることになってしまうでしょう。
まずは、従業員の意見なども取り入れながら、ノー残業デーを導入する必要性から考えていきましょう。
もし、スムーズにノー残業デーが導入できて、それ以降も問題なく運用できるのであれば、毎月もしくは四半期に1度の頻度で「ノー残業ウィーク」の導入を検討してみることをおすすめします。