2024年5月に「育児・介護休業法」および「次世代育成支援対策推進法」が改正され、2025年4月1日から、段階的に施行されます。
今回の改正では、働く男女が仕事と育児・介護を両立するため、子どもの年齢に応じた柔軟な働き方を実現する措置を講じるよう事業者に求めています。
そのため、事業者においては新たな制度の創設や対応が必要になる場合があり、従業員への周知や意向確認も行わなければいけません。
改正の内容をよく理解して、自社がどのような義務を負うことになるのか確認しておきましょう。
日本では、多くの働く男女が仕事と育児・介護の両立に課題を抱えています。
厚生労働省が公表した女性正社員へのアンケート調査では「妊娠・出産を機に退職した理由」の1位が「仕事と育児の両立がむずかしくて辞めた」(41.5%)でした。
また、2021年度の育児休業取得率は、女性が約85%なのに対し、男性は約14%で、この数年で大きく上昇しているものの、いまだ低水準です。
こうした現状を踏まえ、働く男女がこれまで以上に仕事と育児・介護を両立できるよう、2024年5月24日に育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法の改正が国会で成立しました。
改正法は一部を除いて、2025年4月1日から施行されます。
育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法(以下、改正法)の改正の柱となるのは、以下の3点です。
(1)子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
(2)育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
(3)介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
今回は、特にすべての事業者に関係する(1)の「子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充」について、解説します。
近年は、子どもの年齢に応じて「フルタイムで残業をしない働き方」や「フルタイムで柔軟な働き方」を希望する労働者の割合が高くなっています。
これを受けて、改正法では「残業免除」の対象が拡大されました。
これまでは3歳未満の子どもを養育する労働者が、事業者に請求した場合に所定外労働の制限(残業免除)の対象となっていました。
改正後は小学校就学前の子どもを養育する労働者まで、その対象となります。
また、改正法の施行によって、事業者は、3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に対して、職場のニーズを把握したうえで、柔軟な働き方を実現するための措置として、以下のなかから2つの措置を講じる必要があります。
労働者はその2つのなかから1つを選択して利用することができます。
そして事業者は、選択した措置について、個別の周知・意向確認を行う必要があります。
・始業時刻等の変更
・テレワーク等(10日/月)
・保育施設の設置運営等
・新たな休暇の付与(10日/年)
・短時間勤務制度
さらに、3歳未満の子どもを養育する労働者がテレワークを選択できるような措置を講じることが事業者の努力義務になります。
これらは、すべて労働者の「フルタイムで残業をしない働き方」や「フルタイムで柔軟な働き方」を実現するためのものです。
改正法では、子どもの看護休暇も見直されることになりました。
看護休暇とは、1年度のなかで、子ども1人につき5日を限度に看護休暇を取得できるというもので、これまでは小学校就学前の子どもを持つ労働者が対象でしたが、改正法では小学校3年生修了までに範囲が拡大されました。
さらに、看護休暇を取得する事由についても、これまでの子どもの「病気・けが」「予防接種・健康診断」に、「感染症に伴う学級閉鎖等」と「入園(入学)式・卒園式」が新たに加わります。
つまり、労働者は子どもの学級閉鎖や入園式・卒園式などでも看護休暇を取得できるようになるということです。
また、これまでは雇用された期間が6カ月未満の労働者は、労使協定の締結によって看護休暇の取得の対象から除外できましたが、改正後は除外できなくなります。
労使協定の締結によって看護休暇の取得の対象から除外できるのは、週の所定労働日数が2日以下の労働者だけに限られます。
事業者には、子どもを持つ労働者に対して、これまで以上の配慮が求められるようになります。
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮も事業主の義務になりました。
これは、労働者が妊娠・出産を申し出たタイミングや、子どもが3歳になる前までのタイミングで、事業者は面談や書面交付などの方法により、対象の労働者に意向を聴取する必要が生じるというものです。
今回の改正法は、すべての子どもを持つ労働者と、その労働者を雇用している事業者に関係するものです。
厚生労働省のホームページなども確認しながら、必要な措置を講じるようにしましょう。
人手や時間などのリソースが足りず、採用業務に手が回らない場合は、『採用代行(RPO)』サービスを提供する会社に任せる方法もあります。
採用代行は、忙しい企業の代わりに採用業務を担当してくれるサービスです。
採用代行会社はたくさんあり、初めて依頼する場合はどの会社を選べばよいのか迷ってしまうこともあるでしょう。
採用代行サービスにはメリットだけでなく注意すべき点もあり、導入を検討する際は慎重になることが大切です。
採用業務に困っている企業に向けて、費用の相場や、提供会社を選ぶ際のポイントなどを説明します。
採用代行は、1970年代にアメリカで生まれたサービスで、採用のアウトソーシングを指す「Recruitment Process Outsourcing」の頭文字を取り、「RPO」とも呼ばれています。
アメリカでは2000年代の景気後退により、多くの企業が人事の採用担当者を手放さざるを得なくなり、採用業務をアウトソーシングできるRPOに注目が集まりました。
一方、日本では採用代行に特化した専門会社という位置づけで、1990年頃に採用代行のサービスを取り扱う企業が誕生しました。
社会状況の変化に応じて、次第に採用代行の需要は増していき、近年は売り手市場へのシフトや、採用活動の長期化などにより、ますます採用代行サービスのニーズは高まってきています。
採用の現場は就職氷河期を経て、一時売り手市場になるも、2008年のリーマンショック以降は就職難の状態が続いていました。
再び売り手市場に転じたのは2014年頃で、途中コロナ禍の影響などもあったものの、現在も売り手市場は続いています。
新卒採用での指標となる2025年の大卒求人倍率は1.75倍で売り手市場を示しており、求職者の数よりも企業の求人数が多いことがわかります。
売り手市場においては人材の確保も容易ではありませんし、採用活動に割かなければならないリソースも増していきます。
特に近年は、1年を通して採用活動を行う企業が増えたことで採用活動が長期化していることに加え、SNSや自社サイトなど、ハーローワークや求人サイトだけではない採用方法の多様化も、採用担当者の負担が増した要因といわれています。
採用代行会社に一連の採用業務を任せてしまうことで、負担の軽減はもちろんですが、採用業務の質の向上も期待できます。
採用代行会社は、採用業務に関する豊富なノウハウがあり、採用計画の立案から、募集要件の策定に内定者へのフォローまで、一連の採用活動を高いレベルで遂行する力が備わっています。
「募集に人が集まらない」「内定辞退者が多い」「採用しても定着しない」など、自社における採用業務の課題も解決できるかもしれません。
採用業務の改善に役立つアドバイスを受けられるのは、採用代行サービスを利用するうえでの大きなメリットといえます。
サービスを提供する会社にもよりますが、一般的に採用代行を利用する場合は、代行会社に立ててもらった採用計画に沿って求人募集を行なってもらい、書類選考や面接の実施といったプロセスをたどります。
また、求人票の管理や説明会の企画運営、応募者の管理や面接のスケジュール調整、筆記試験や適性検査の実施、合否連絡や内定者研修など、さまざまな採用に関する業務をお願いすることが可能です。
ただし、これらの採用業務を外部に任せるということは、採用に関するノウハウが社内に蓄積しないということでもあります。
また、外部の会社であるため、適切なコミュニケーションを取って意思疎通を図らないと、求めていない人材が集まってしまうなど、認識のすれ違いが起きてしまうこともあり得ます。
こうしたメリットとデメリットの両方をよく理解したうえで、採用代行サービスを利用しましょう。
採用代行会社を選ぶ際は、その会社が依頼したい業務内容に対応できるかどうかについて、しっかりと確認しておきます。
多くの採用代行会社は幅広い採用業務を代行することができますが、それぞれ得意とする分野が異なります。
たとえば内定辞退の防止に力を入れたいのであれば、内定者のフォローに定評のある会社を選ぶなど、会社の特徴や強みを把握しておくことも大切です。
また、かかるコストも採用代行会社を選ぶうえで大切な基準となります。
依頼先の企業や依頼する内容、契約や期間によって大きく異なりますが、エントリー受付や応募者管理などの基礎的な採用業務だけを依頼するのであれば、月額契約で5〜10万円が相場といわれています。
採用業務を一括で任せたい場合は、一般的に30万円以上が目安となります。
採用業務にかけられる予算には限りがあるため、予算に見合った範囲の業務を依頼するようにしましょう。
採用代行会社は、多忙な人事担当者に代わってさまざまな採用業務を対応してもらえる心強い存在ですが、あくまで外部の協力会社です。
最終的にその応募者を採用するかどうか、合否に関わる部分の判断は自社で行うようにしましょう。
慢性的な人手不足のなかで優秀な人材を獲得するためには、採用代行サービスの活用も視野に入れながら、継続的に採用活動を行なっていくことが重要です。
労働基準法では、使用者は、労働時間が一定時間を超える労働者に対して休憩時間を与えなければならないと定めています。
この休憩時間は、従業員が完全に労働から離れて、心身の疲れを回復させるためのものなので、基本的には従業員の自由にさせなければいけません。
これを「自由利用の原則」といいます。
では、従業員が休憩時間中に外出する場合も、自由利用の原則が当てはまるのでしょうか。
休憩時間の自由利用に関する考え方について説明します。
従業員の労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与える必要があります。
この休憩時間中は、警察官や消防官などの特殊な職種を除き、基本的にはどんな仕事であっても、労働から離れて、自由でなければいけません。
労働から離れるとは、使用者の指揮命令下から完全に離れるという意味でもあります。
解釈を巡ってよく問題になるのが、休憩時間中の「電話番」です。
たとえ、電話がかかってこなかったとしても電話のために待機している状態は、使用者の指揮命令下から完全に離れているとはいえず、休憩時間には該当せず、労働時間に該当すると考えられています。
従業員が電話番をしていた時間は労働時間として賃金が発生しますし、別で休憩時間を与える必要もあります。
電話番や店番など、業務に従事していないものの、もし何かあればすぐに対応しなければならない「待機時間」や「手持ち時間」は、基本的に労働時間として扱われるので注意してください。
当然、休憩時間中の顧客対応も労働時間に含まれます。
一方で、「自由利用の原則」があるからといって、従業員は休憩時間中に何をしてもいいというわけではありません。
休憩時間は、あくまで休憩が目的であり、疲労や集中力の低下などによって引き起こされる労働災害を防ぐという意味合いがあります。
したがって、飲酒や過度な運動などは休憩にはそぐわない行為ですし、職場の規律を乱したり、ほかの従業員の休憩を妨害したりする行為も認められるものではありません。
このような管理上および社会通念上問題となる行為を禁じる目的であれば、休憩時間の過ごし方について、使用者が一定の制限を加えることもできます。
では、休憩時間中の外出については、どのように考えればいいのでしょうか。
基本的に自由利用の原則があるため、従業員が休憩時間中に外出したとしても、使用者がこれを禁じることはできません。
ただし、休憩時間といっても、使用者の拘束下にあるため、一定の要件のもと外出を制限したとしても、ただちに労働法違反になるわけではありません。
事業所のなかにしっかりと休憩できる施設が整っており、さらに合理的な理由があれば、従業員の外出について、最小限の制限を加えることが認められています。
合理的な理由は、事業場の規律を保持するうえで必要とされるものに限られ、「外出されてしまうと事業所に人がいなくなり、来客の対応ができない」などの理由で外出を禁じている場合は、労働法違反となります。
合理的な理由は、あくまで業務以外の理由でなければいけません。
また、外出を許可制にしたとしても、合理的な理由がなければ不許可にすることはむずかしいでしょう。
どうしても外出に制限を加えたければ、合理的な理由があることは前提のうえで、許可制ではなく「届出制」にして、従業員が外出する際は上長の承認を受けるようにするのが現実的です。
基本的には外出自体に厳しい制限を課すことはできませんが、就業時間に間に合わないほどの遠出や、ギャンブル施設への立入り、宗教の勧誘や政治活動、ビラ配布や物品の販売などは、事業場の規律を保持する目的で禁じることができます。
また、原則として、従業員は休憩後すぐに業務が始められる状態にしておかなければいけません。
外出して職場から離れて過ごすことは、気分転換やリフレッシュになりますし、仕事の効率アップも期待できます。
買い物や役所での用事を休憩時間中に済ませたいという従業員の要望もあるでしょう。
たとえ合理的な理由があったとしても、外出の制限には慎重にならなければいけません。
労働基準法違反とならないよう、本当に外出制限が必要なのか、必要であるのならばなぜ必要なのかをはっきりとさせ、ルールを運用していきましょう。
定時に仕事を終えて退社する『ノー残業デー』を設定している企業があります。
ノー残業デーとは、会社全体もしくは部署ごとに、残業をせずに退社する日のことを指し、一般的には1週間のうちに1〜2日ほど設定されるケースが多いです。
人件費の削減や業務の効率化など、さまざまなメリットがある一方で、ノー残業デーが形骸化してしまっている企業も少なくありません。
ノー残業デーを効果的に運用するための方法について説明します。
長時間労働の是正は企業にとって喫緊の課題
2023年4月1日から、中小企業では月60時間を超えた残業の割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。
これまで大企業に限られていた割増賃金率が中小企業にも適用された形となります。
この割増賃金率の上昇は、長年多くの会社で続いていた長時間労働を抑制し、労働者のワーク・ライフ・バランスを実現するための重要な施策です。
労働時間の短縮は「働き方改革」を進めるうえでの大きな課題となっており、各企業がそれぞれ努力して、長時間労働の是正に取り組んでいかなければいけません。
そのための具体的な取り組みの一つが『ノー残業デー』です。
ノー残業デーは、特定の日だけは残業をさせずに定時で従業員を退社させる制度で、長時間労働の是正にとても効果があるとされています。
ノー残業デーを導入している会社の多くは、区切りが付けやすい週の真ん中である水曜日をノー残業デーに設定しているようです。
また、国家公務員も水曜日を全省庁一斉定時退庁日(ノー残業デー)にして、職員の定時退社を促しています。
ノー残業デーを導入することで、従業員は家族との時間やプライベートの時間を確保でき、リフレッシュして翌日以降の仕事と向き合うことができます。
心身の健康の増進も期待できるでしょう。
また、ノー残業デーは定時で退社する必要があるため、優先順位の見直しなどによる業務の効率化を図る効果も期待できます。
業務の効率化はそのまま組織における生産性の向上にもつながります。
ほかにも、人件費の抑制や、採用の際のアピールポイントになるなど、さまざまなメリットがあり、6〜7割の企業でノー残業デーが導入されています。
長時間労働の抑制に役立つノー残業デーですが、導入には入念な制度設計が必要です。
ノー残業デーを導入しても、定時を超えても会社に居残る人がいたり、仕事を自宅に持ち帰ったりする人が出てしまうと、結局は制度が形骸化してしまい、ほとんど意味がありません。
また、業務の効率化ができていないと別の日の残業が増えてしまい、上長である管理職に仕事のしわ寄せが行ってしまうケースも考えられます。
ノー残業デーを形骸化させずに運用するためには、まず制度を導入する意義をしっかりと社内で共有し、すべての従業員に周知する必要があります。
長時間労働を抑制するという目的意識を全員に持ってもらうことで、制度の運用もしやすくなるでしょう。
また、定時で退社するための業務の効率化についても、個人に任せるのではなく、組織全体の課題として考えていくことが大切です。
ノー残業デーを設定した曜日に定時で退社できない部署や人がいたとしたら、業務量が一部に偏っている可能性があります。
ノー残業デーの導入は、業務の負荷状況を可視化し、再配分するきっかけにもなります。
誰もが定時で退社できるように、業務の平準化と再配分を行うことが、ノー残業デーを成功させるカギとなります。
ただし、部署の繁忙期や個人の業務内容などによって、どうしても仕事量が増減するタイミングなどは異なってくるでしょう。
もし、仕事量や取引先との兼ね合いなどでどうしても残業しなければならない場合は、全社で一斉にノー残業デーを実施するのではなく、一部の部署や個人単位でそれぞれ別の日に定時退社する「ローテーション方式」を導入するという方法もあります。
ノー残業デーを導入している企業によっては、定時を過ぎると強制的に消灯したり、オフィスを施錠したりするなどの強制的な手段で、残業を防いでいるところもあります。
しかし、残業が発生する根本的な原因を把握していないと、従業員は自宅や別の場所でサービス残業をすることになってしまうでしょう。
まずは、従業員の意見なども取り入れながら、ノー残業デーを導入する必要性から考えていきましょう。
もし、スムーズにノー残業デーが導入できて、それ以降も問題なく運用できるのであれば、毎月もしくは四半期に1度の頻度で「ノー残業ウィーク」の導入を検討してみることをおすすめします。
職場環境は従業員の働きやすさに直結するものであり、快適に働けるように整備することは事業者の責務でもあります。
オフィスの温度やトイレの数、従業員が作業する際の手元の明るさなどは、労働安全衛生法に基づく労働衛生基準によって定められており、2021年の法改正によって、これらの基準の一部が見直されました。
もし、自社の職場が基準に適応していない場合は、労働安全衛生法違反となる可能性があるため、速やかに改善しなければいけません。
従来の基準から変わった点や、事業者が気を配らなければいけないポイントなどについて説明します。
職場環境についてのさまざまな基準を定めた労働衛生基準は、社会状況や働き方の変化などによって、これまで改正が繰り返されてきました。
2021年12月1日にも働きやすい環境整備への関心の高まりなどを受け、労働安全衛生法に基づく「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布され、一部を除き同日より施行されました。
『事務所衛生基準規則(事務所則)』とは、事務作業などを行う事務所についての衛生基準を定めた規則で、『労働安全衛生規則(安衛則)』は工場や建設現場なども含めたすべての事業場の衛生基準を定めた規則です。
改正によって衛生基準の見直しが行われた主な項目は『温度』『照度』『トイレ』『休養室・休養所』です。
それぞれ確認していきましょう。
まず温度について、これまでは空調設備がある事務所の室温は「17度以上28度以下」になるように努めなければいけませんでしたが、今回の改正によってこの努力目標値が「18度以上28度以下」に見直されました。
人は気温が低いと血圧が上昇しやすくなります。
WHO(世界保健機関)は高齢者への血圧上昇の影響を考慮して、室温のガイドラインにて低温側の基準を18度としており、改正はこれに倣ったかたちとなります。
また、冬場はもちろんですが、熱中症の危険がある夏場も事務所の室温には気を配らなければいけません。
注意したいのは、努力目標値はあくまで室温について定めた温度であり、エアコンなどの設定温度ではないということです。
夏場はエアコンの温度を28度に設定していても、室温が28度以下にまで下がらないことがあります。
温湿度計を設置するなどして適時、室温を計測しながら、換気や温度調整などを行うようにしましょう。
ちなみに、建築現場などの多量の発汗を伴う作業場では、塩や飲料水を備えるように衛生基準で定められていますが、塩については、塩飴や塩タブレットなどのほか、スポーツドリンクなどの飲料水に含まれる塩分も該当することが、今回の改正で明示されました。
改正によって事務所における照度の基準にも変更がありました。
照度とは、光が当たる面の光量を示す単位のことで、ルクスで表します。
これまでは、作業の内容ごとに3つの区分で照度基準が決められていましたが、改正後は2つの区分となり、読み書きが必要な「一般的な事務作業」については300ルクス以上、資料の袋詰めなど、事務作業のうち、文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のない「付随的な事務作業」については150ルクス以上と定められました。
照度が不足すると眼精疲労が生じやすくなりますし、前かがみになるといった不自然な姿勢を取り続けることにもなり、健康障害が生じやすくなります。
特に高齢の労働者が増えている昨今では、健康を守る観点からも適切な照度を保つことが重要になります。
トイレに関しては、改正によって「独立個室型の便所」が法令で定義されました。
独立個室型とは、隙間なく四方を壁で囲われていて内側から施錠できるトイレのことです。
衛生基準では原則として、男性用と女性用のトイレの設置を義務づけていますが、たとえば集合住宅の一室などをオフィスとしている場合などは、トイレが一つしかないこともあります。
改正では、こうしたケースに対応するために、同時に就業する労働者が常時10人以内の事業所においては、男性用と女性用に区別しなくても、例外として独立個室型の便所があれば、基準を満たしていることとしました。
ただし、男女共用のトイレは風紀上の問題や従業員の心理的な負荷が発生する可能性があるため、あらかじめ使用についてのルールを決めておくようにしましょう。
休養室・休養所に関しては、常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業者に限り、男性用と女性用に区別して設ける必要があります。
専用の設備である必要はなく、ベッドや布団など、体調不良の従業員が一時的に横になって休める機能が備わっていれば、オフィスの空いている部屋などでも問題ありません。
ほかにも、更衣室やシャワー設備、一酸化炭素・二酸化炭素の測定、救急用具などについての基準が見直されています。
厚生労働省のホームページなどを参考にしながら、事業者や衛生管理の担当者は、衛生基準が守れているかどうかを確認しておきましょう。
一般的に、良好な労働環境で従業員が働きやすいホワイト企業よりも、劣悪な労働環境であるブラック企業の離職率のほうが高い傾向にあります。
しかし、ホワイト企業であっても、まったく離職者がいないわけではありません。
特にホワイト企業で顕著なのが、若手社員の『ホワイト離職』です。
働きやすい職場なのに、若手社員はなぜ会社を辞めてしまうのでしょうか。
ホワイト企業で起きる可能性のあるホワイト離職について、解説します。
明確な定義こそないものの、劣悪な職場環境で社員に過酷な労働や負担を強いる会社のことを「ブラック企業」と呼びます。
社員に極端な長時間労働やノルマを課す企業や、セクハラやパワハラなどのハラスメントが横行している企業、採用時の労働条件を守っていない企業などはブラック企業といえるでしょう。
2013年に新語・流行語大賞に選ばれたことで、広く知られるようになったブラック企業ですが、その8割で時間外労働など労働基準法関連の法令違反があったというデータもあり、厚生労働省は2017年より、法令違反のあった企業の一部を公表しています。
一方、ブラック企業に比べて、労働基準法関連の法令を遵守し、ハラスメントもない「ホワイト企業」は、その良好な職場環境から採用の場面で有利に働きます。
実際に、さまざまな媒体が毎年発表している、新卒向けの就職人気企業ランキングの上位は、ホワイト企業と呼ばれる企業が名を連ねています。
誰しもブラック企業よりは、有給休暇が取得しやすく、福利厚生もしっかりしているホワイト企業で働きたいと思うものです。
しかし、離職率が低いといわれているホワイト企業であっても、職場を去ってしまう社員がいます。
こうしたホワイト企業に勤めている若手社員の離職を『ホワイト離職』と呼びます。
近年は報道などで「ホワイト離職」が取り上げられることも増えてきました。
では、なぜ良好な職場環境や労働条件であるにもかかわらず、若手社員は離職してしまうのでしょうか。
そこには、ホワイト企業ならではの問題が潜んでいました。
ホワイト離職の原因の一つとして、仕事に対する『やりがい不足』が考えられます。
多くのホワイト企業では業務の標準化が進められており、誰が担当しても同じ成果が出せるように業務フローが設計されています。
ブラック企業にありがちな属人化を廃することで、業務の効率化や生産性の向上を図ることが目的で、たとえミスをしても一人の社員が全責任を取らされることはありません。
しかし、責任がなく、誰でもできる仕事は、若手社員の意欲をそぐことにもなります。
過重労働を課されることも、大きな責任を負わされることもない代わりに、仕事の自由度や力を発揮できる機会がなければ、働くモチベーションも下がってしまいます。
また、経営が安定していることの多いホワイト企業では、新規事業を手がけたり、新規市場に参入したりする機会も少なく、仕事も定型作業の反復になりがちです。
上昇志向の若手社員であれば「このまま成長の機会のない職場にいてよいのだろうか?」と不安を覚え、将来的なキャリア形成を見据えて、離職を選択することもあるでしょう。
このようなホワイト離職を防ぐためには、若手社員でも挑戦できる環境を整備することが重要です。
決められた仕事だけを与えるのではなく、新規プロジェクトに参加させたり、難易度の高い業務を担当させたりするといった、これまで若手社員が携わることのなかった業務へ任命することで、きっとやる気を引き出せるでしょう。
新しい仕事を任されたことによって若手社員の負担が増えたとしても、上長が適宜フォローしたり、仕事量や労働時間の管理をしっかりと行なったりすれば、仕事のやりがいと働きやすさを両立させることが可能です。
また、上長のサポートは前提として、若手社員にある程度の裁量権を与えることも効果的です。
自分で仕事の進め方を考えたり、決断したりすることは若手社員の自主性を養い、責任感を持たせることにつながります。
また、仕事に対してのモチベーションも上がるでしょう。
もし現在、若手社員に定型業務ばかりさせているのであれば、まずは面談などを行い、「どんな業務にチャレンジしたいか」「どういったことに不満があるのか」「どんな働き方が理想なのか」などをヒアリングして、聞き出しましょう。
若手社員にも個性があり、新しい仕事で活躍したい人もいれば、現在の業務内容で満足している人もいます。
適切にコミュニケーションを取り、社員に合わせた仕事内容や働き方を模索していくことがホワイト離職を防ぐうえで重要なポイントです。
労使間で問題が起きた際に、従業員の所属する労働組合から『団体交渉』の申し入れをされることがあります。
団体交渉とは使用者と労働者が同じ立場になって、賃金や解雇、ハラスメントや配置転換など、さまざまな労使間の問題について話し合うことを意味します。
団体交渉は憲法や労働組合法によって労働者の権利として保障されており、使用者側は正当な理由なく、団体交渉の申し入れを拒否できません。
もし、申し入れを拒否したり、無視したりすると、ペナルティを受けることにもなりかねません。
労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合に、適切な対応が取れるようにしておきましょう。
労働者が主体となって組織し、労働条件の維持改善や経済的地位の向上などを目指して組織された団体のことを労働組合といいます。
日本国憲法第28条では、労働者が労働組合を結成する「団結権」、労働者が使用者と団体交渉を行う「団体交渉権」、そして、労働者が要求を実現するために団体で行動する「団体行動権(争議権)」という3つの権利を保障しています。
この権利のことをまとめて『労働三権』と呼びます。
憲法は法律や条例などよりも効力が強く、団体交渉権で保障されている通り、労働組合が申し入れた団体交渉を使用者側は拒否できません。
また、労働三権に実効性を持たせるために、一般法として『労働組合法』などが定められており、同法の第7条でも正当な理由なく団体交渉を拒むことを禁止しています。
もし、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否した場合、その拒否自体が『不当労働行為』に該当する可能性があります。
不当労働行為とは、団体交渉の拒否をはじめとした労働組合法で禁止されている使用者側の行為のことで、該当する行為があった場合は、労働組合の申し立てによって、労働委員会から是正するように命令が出されます。
この命令のことを『救済命令』と呼びます。
使用者側はこの救済命令に従う必要がありますし、さらに救済命令を拒否した場合は、50万円以下の過料に処される可能性があります。
場合によっては損害賠償責任を追求されるケースもあり、よくわからないからといって団体交渉の申し入れを放置したり、無視したりしていると、取り返しのつかない状態に陥ってしまう可能性があるので注意が必要です。
なお、団体交渉の申し入れは、企業内の労働組合が行うケースと、外部の労働組合が行うケースがあります。
大企業であれば自社の内部にある『企業内組合』と団体交渉を行うことになりますが、多くの中小企業は社内に労働組合が存在しないため、複数の企業および業種の従業員が所属している外部の『合同労組』と団体交渉を行なっていくことになります。
団体交渉は労働者の権利であり、たとえば、派遣会社の社員や、すでに退職した従業員からの申し入れなどであっても、応じなければいけない場合があります。
一方で、正当な理由があれば、団体交渉を拒否できます。
交渉を行なった末にこれ以上進展が望めないケースや、労働組合側から暴力行為を受けたケースなどは団体交渉を拒否する正当な理由として認められています。
ほかにも、弁護士の参加を拒否されたケースや、子会社の従業員から親会社へ申し入れが行われたケースなどでも団体交渉を拒否することができる場合があります。
また、団体交渉の拒否以外にも使用者側が注意しなければいけない行為があります。
団体交渉の申し入れや組合への加入を理由とする転勤や降格などの不利益な取り扱いは不当労働行為に該当しますし、組合員に対して組合を辞めるように圧力をかける行為も禁止されています。
さらに、労働組合法では使用者である会社側が労働組合に経費などを援助することを認めていません。
たとえ組合側から頼まれたとしても、組合の活動に使用する通信費や備品代などは負担しないようにしましょう。
なお、最小限の広さの事務所の供与や、厚生資金または福利基金に関する寄与などは、経費援助には当たらない場合があるとされています。
社内の会議室などの設備を団体交渉で使うのは問題ありませんが、交渉の時間が長引いたり、交渉がまとまらなかったりする可能性があるため、できるだけ避けるようにしたほうがよいでしょう。
また、外部の合同労組の会議室を指定されても、使用者側は拒否できます。
団体交渉は双方が参加しやすく、平等な立場になって交渉できる場所でなければいけません。
貸し会議室やレンタルスペースなど、できるだけ同一の条件で交渉できる場所を選ぶようにしましょう。
そのほか、交渉のなかでも使用者側が気をつけなければいけないポイントはいくつもあります。
労働組合から団体交渉の申し入れがあれば、まずは労使問題に詳しい専門家などに相談し、適切に準備を進めていくことが大切です。
変化し続ける時代や環境において、労働者が主体的となって能動的にキャリアの構築を行うことを『キャリア自律』といいます。
これまでのキャリア形成は企業が主体となって行われていましたが、終身雇用制度の崩壊や、働き方の多様化などによって、働く人みずからが将来を切り開いていく必要が出てきました。
だからといって、企業側には関係のない話というわけではなく、むしろ、企業として、こうした自社の従業員のキャリア自律を促し、サポートしていかなければいけません。
特に将来に不安を抱えている中高年社員のキャリア自律について、企業ができることを考えていきます。
「中高年社員」と呼ばれる40〜50代くらいのミドル世代になると、社内の出世レースも落ち着き、ある程度、自身の行く末を見通せるようになってきます。
しかし、なかなか将来の展望が描けず、さまざまな要因から自身のキャリアについて不安を抱えてしまう中高年社員もいます。
キャリア形成への不安は仕事への意欲に直結するため、そのままモチベーションを失ってしまう人も少なくありません。
そこで必要になるのが、中高年社員の『キャリア自律』と、企業側のサポートです。
これまで従業員のキャリア形成は、ジョブローテーションや社内公募制度、研修やセミナーなど、企業が主体となって行われるものでした。
しかし、成果主義やジョブ型雇用の導入、終身雇用制度の崩壊などによって、近年は企業が社員の将来を考えるのではなく、社員がみずから将来を考え、自主的にキャリアを構築していかなければならない時代になりました。
人生100年時代が到来するなかで、特に定年が迫る中高年社員は、自律してキャリアの構築を図ることが重要視されます。
実際に、ここ数年は自主的にスキルアップや能力開発に取り組む人が増えてきています。
必要に応じて学びと仕事を交互に繰り返しながら、必要なスキルを身につけることを『リカレント教育』と呼びます。
リカレント教育の市場規模は拡大傾向にあり、2021年度は460億円を突破したといわれています。
また、社会人の『リカレント(学び直し)』は再就職や年収にも影響しており、内閣府の資料によると、自己啓発や学び直しによって、3年後の年収と就業確率が共に上昇することがわかっています。
キャリア自律を促進していくにあたっては、社員の自主性に頼るだけでなく企業としてもサポートしていくことで、よりよい成果が得られる可能性があるといえるでしょう。
中高年社員のキャリア自律をサポートすることによって、企業はどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
一つに、中高年社員のリカレントによって得たさまざまな知見やノウハウが社内に蓄積されていくことによって、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。
また、個々の企業に対するエンゲージメントも高まりますし、キャリア自律を支援する企業として、採用の現場でも有利に働くでしょう。
こうしたメリットを最大化するために、企業はまず面談などで中高年社員と話し合う機会を設け、キャリア自律についての意思確認を行う必要があります。
どのようにキャリア自律を進めていくのかなど、将来の展望を含めてヒアリングすることで、対応の仕方も変わってきます。
たとえば、キャリア自律の方法に迷っている中高年社員に対しては、キャリアプログラムや情報の提供といったかたちで支援することが可能です。
家族の介護などの家庭内の問題でキャリア自律が妨げられている中高年社員に対しては、柔軟な働き方ができる労働環境の整備・構築などを行なっていきましょう。
場合によっては、ジョブローテーションや社内公募制度など、これまで企業が主体となって行なってきたキャリア形成と組み合わせるかたちで、キャリア自律を促していくというやり方もあります。
キャリア自律につながる多様な人事制度の導入や、キャリア自律に関する相談窓口の開設などは多くの企業で導入されている取り組みで、一定の成果を上げています。
厚生労働省では、奨励金制度の導入や目標の明確化など、キャリア自律に関して効果のあった企業の取り組みを公表しており、自社のキャリア自律支援の参考にできます。
住宅ローンなどの経済的な負担、自身の健康上の不安、親世代の介護問題など、中高年社員は複数の課題を抱えているケースが多く、企業のサポートがなければキャリア自律がむずかしい人もいます。
個々の状況に合わせて、適切な支援を行なっていくことが大切です。
パートやアルバイトなどの『短時間労働者』に対する社会保険の適用範囲が拡大され、2024年10月から従業員が51人以上の企業で働く短時間労働者も社会保険の加入対象となります。
事業者は要件を満たす短時間労働者を社会保険に加入させる義務があり、もし未加入のままだと、管轄の年金事務所から要請や指導が行われ、悪質な場合は立入検査を受ける可能性があります。
加入対象となる短時間労働者を雇用している事業者は、どのような準備をしておけばよいのでしょうか。
社会保険加入の適用範囲拡大を前に、事業者が行うべき手続きを段階的に説明します。
社会保険とは健康保険や厚生年金保険などの総称で、事業者は原則として『フルタイム労働者』を必ずこの社会保険に加入させなければいけません。
フルタイム労働者とは、各事業所で定めている正規の勤務時間帯に最初から最後まで勤務する労働者のことを指し、逆に一定の時間帯のみ勤務する労働者を『短時間労働者』と呼びます。
これまで正社員などのフルタイム労働者に対して、パートやアルバイトなどの短時間労働者は、社会保険に加入する義務がありませんでした。
しかし、社会的なセーフティネットの強化や、社会保険による格差の是正などを目的に、2016年10月からは改正年金法に基づき、一定の条件のもと社会保険の適用範囲が拡大され、従業員数501人以上の企業で働く短時間労働者は、社会保険に加入できるようになりました。
社会保険への加入は、労働者にとってさまざまなメリットがあります。
厚生年金によって、将来的に受け取ることのできる年金額が増えますし、障害のある状態になった場合も障害厚生年金が支給されます。
また、ケガや出産によって仕事を休まなければならない場合に、賃金の3分の2程度の傷病手当金や出産手当金を受け取ることができるなど、健康保険の給付も充実します。
配偶者の扶養の範囲で働いている短時間労働者は、扶養基準である130万円を意識せずに働くことができるのも利点の一つです。
この社会保険の適用範囲ですが、2022年10月にはさらに従業員数101人以上の企業で働く短時間労働者も対象となり、2024年10月からは従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者も対象となります。
社会保険料は事業者と労働者の折半となるため、短時間労働者を雇用している従業員数51人以上の企業は、新たに負担が増えることになりますが、社会保険に入れるということは企業の求人としての魅力が増すことにもなります。
社会保険の適用の範囲内となる従業員数51人以上の企業のことを『特定適用事業所』といいますが、まずは自社が特定適用事業所に該当するのかどうかを確認する必要があります。
フルタイムの従業員数と週の労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員数を加えた数が51人以上であれば、特定適用事業所となるので、必要な手続きを進めていきましょう。
特定適用事業所となることがわかったら、続いては加入対象者を把握します。
新たに加入対象者となるのは、1週間の所定労働時間または1月の所定労働日数がフルタイムの従業員の4分の3未満である人のうち、以下の条件をすべて満たす短時間労働者になります。
・週の所定労働時間が20時間以上、30時間未満(所定労働時間が40時間の企業の場合)
・所定内賃金が月額8.8万円以上(残業代や賞与などは含まない)
・2カ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象)
そして、事業者はこれらの条件を満たす加入対象者と話し合いを行なった方がよいでしょう。
このときに伝える必要があるのは、主に「社会保険の加入対象になること」「社会保険に加入するメリット」「今後の労働条件」です。
本人の同意のうえで、労働時間の増減や正社員への転換なども視野に入れながら、話し合いを進めていきましょう。
労使間の合意が得られたら、書類の作成と届出を行います。
特定適用事業所には、2024年9月までに日本年金機構から通知書類が届くので、同年の10月7日までに「被保険者資格取得届」をオンラインで届け出ましょう。
2024年10月から、新たに従業員数51人以上の企業が特定適用事業所になりましたが、基準を満たす従業員数が50人以下の企業であっても、従業員の同意に基づいて、適用事業所になることができます。
このような任意で適用事業所になる企業を『任意特定適用事業所』といいます。
任意特定適用事業所も社会保険料の負担は増えるものの、従業員の社会保険料に関しては経費計上することができるうえに、「社会保険適用促進手当」や「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」など、国からの支援を受けることもできます。
特定適用事業所と同じく、求人の際に「社会保険完備」と掲げられるのも大きなメリットです。
従業員数50人以下の中小企業も、任意特定適用事業所になることを検討してみてはいかがでしょう。
モラハラとは『モラルハラスメント』の略で、モラル(倫理観、道徳)に反した言動や態度で相手の人格や尊厳を傷つける行為を指します。
そして、言葉を発さずに、態度や表情、行動で相手を追い詰めるのが『サイレントモラハラ』です。
サイレントモラハラは言葉や暴力による攻撃ではないため、表面化しづらいという特徴があります。
しかし、サイレントモラハラを放置していると、被害者が精神的に追い詰められ、休職や退職してしまう可能性があります。
従業員を守るためにも、サイレントモラハラの防止策を学んでおきましょう。
『モラルハラスメント(モラハラ)』は言葉や態度などで、相手を精神的に追い詰めるハラスメントです。
一方、『パワーハラスメント(パワハラ)』は、優位な立場を利用し、業務の範囲を超えて、相手を精神的または肉体的に追い詰めるハラスメントを指します。
そのため、同じ行為がモラハラとパワハラの両方に含まれることもあります。
たとえば、上司からの「役立たず」「早く辞めろ」など、相手の人格を否定するような発言は、モラハラであり、パワハラの6類型あるうちの一つである「精神的な攻撃」にも該当します。
パワハラとモラハラの大きな違いは、優位性の有無です。
パワハラが上司から部下など優位的な関係に基づいて行われるのに対し、モラハラは優位性を問わず、夫婦間や同僚間など、本来は対等な関係であっても発生します。
暴力などで身体的な危害が加えられるわけではないため、ただでさえ発覚しづらいモラハラですが、さらにやっかいなのが『サイレントモラハラ』の存在です。
言葉に出さずに相手を攻撃するサイレントモラハラは、実態が把握しづらく、パワハラやセクハラ、モラハラなどよりも表面化しづらいハラスメントといわれています。
では、どういった行為がサイレントモラハラになるのでしょうか。
たとえば、何を聞かれても一切答えない、挨拶に応じない、目を合わせないなどの「無視」、大きな「ため息」や、繰り返しの「舌打ち」、無言の「にらみつけ」、不機嫌な「表情」や「態度」などは、すべてサイレントモラハラに該当します。
また、相手に聞こえるような大きな声で、不平や不満をこぼす「独り言」もサイレントモラハラといえます。
ほかにも、実際の職場で報告されている例として、会議の内容など業務上必要な情報を共有しない「情報の非共有」、職場のイベントなどに呼ばない「集団での排除」などがあり、意図的にこれらの行為が行われることで、業務に支障をきたすおそれもあります。
サイレントモラハラは、いわゆる無言の嫌がらせのことで、態度や表情だけで相手にプレッシャーや緊張感を与え、萎縮させます。
被害者は次第に孤独感や劣等感を抱くようになり、最終的には休職や退職へと追い込まれていきます。
パワハラやセクハラなどと同様、サイレントモラハラも絶対に許してはいけない行為であり、企業としては、すぐに何らかの対策を講じたいところです。
しかし、サイレントモラハラは言葉や行動が伴わないため、立証がむずかしく、被害者自身もサイレントモラハラの被害者であることを自覚しづらいという特徴があります。
「過敏になっているだけかもしれない」「機嫌が悪いのは自分に落ち度があったからだろう」などと考えるサイレントモラハラの被害者は少なくありません。
このように、被害者が第三者に相談せず、問題を自分の心に秘めてしまうことがサイレントモラハラの大きな問題点といえます。
サイレントモラハラを防止するためには、まずはどういった行為がサイレントモラハラに該当するのか、全従業員に周知を図り、被害者がいれば「自分は被害者なんだ」という自覚を促すことが大切です。
そのうえで、被害者が周囲に相談したり、声をあげたりしやすい環境づくりを行なっていきましょう。
具体的には、定期的な面談の実施やハラスメント相談窓口の設置などで、被害者の声を拾えるようにしておくことが重要です。
被害者がみずから申し出るには勇気が必要で、諦めてしまうこともあるため、第三者が匿名で通報できるような制度の整備も行わなければいけません。
匿名のアンケート調査やメールフォームなどは、被害者はもちろん、サイレントモラハラの現場を目撃した第三者が通報しやすい取り組みの一つです。
自身の周囲でサイレントモラハラが疑われるような状況があれば、随時書き込んでもらいましょう。
サイレントモラハラはとても陰湿で悪質性の高いハラスメントです。
特に上下関係に厳しい職場やコミュニケーション不全の起きている職場で発生しやすいといわれています。
もし、複数人の通報や証言などで、サイレントモラハラが実際に起きていることが明確になった場合は、加害者の処分も考えなければいけません。
防止措置が事業主の義務となっているセクハラやパワハラと同様に、サイレントモラハラが起きないような防止措置を講じていきましょう。
最低賃金とは、最低賃金制度によって定められている賃金の最低限度額のことで、事業者は最低賃金以上の賃金を支払う義務があります。
最低賃金の額は毎年引き上げられており、最低賃金での支払いをしている事業者はそれに応じて賃上げを行わなければいけません。
こうした賃上げを行う事業者をサポートする、さまざまな助成金や補助金制度が設けられています。
ここで気にしておきたいのが『事業場内最低賃金』という言葉で、助成金等の申請に大きく関係してくる要素の一つです。
助成金等の申請を検討している事業者は理解しておきたい、事業場内最低賃金について説明します。
2023年10月から適用された新たな都道府県別の地域別最低賃金は、物価高の影響などもあり過去最大の引上げ幅となりました。
全国平均で1,004円(時間額)と、前年度から43円も引き上げられています。
2024年も例年通り、地方最低賃金審議会の議論を経て、10月には引き上げられることが予定されています。
最低賃金法によって定められた最低賃金は、賃金の最低額を保障するもので、従業員の賃金が最低賃金に満たない場合、事業者は最低賃金法違反となります。
従業員には最低賃金との差額を支払う必要があり、もし支払わなければ、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
したがって、現状の最低賃金で従業員を雇用している事業者は、最低賃金の更新にあわせて『賃上げ』を行わなければいけません。
財務省が全国計1,125社を対象に行なった調査によれば、ベースアップを行なった企業が2023年度は64.4%、2024年度は70.7%、定期昇給を行なった企業が2023年度は79.4%、2024年度は81.9%でした。
多くの企業が賃上げに踏み切っていることがわかります。
しかし、賃上げをする余裕がなく、対応に苦慮している事業者も少なくありません。
そんな事業者を支援するために、厚生労働省や中小企業庁では、さまざまな助成金や補助金を用意しています。
「業務改善助成金」は、生産性向上のための設備投資にかかった費用を一部助成する助成金で、賃上げを行なった事業者が対象となります。
同じく「キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)」も賃上げを行なった事業者に対しての助成金で、「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」は、事業者が賃上げに努めると補助金の採択において加点措置を得ることができます。
そして、こうした助成金や補助金を申請する際に、覚えておきたいのが『事業場内最低賃金』です。
事業場内最低賃金とは、その事業場における最も低い時間給のことで、「事業場内最低賃金の引上げ」が助成金や補助金を申請する際の条件になっている場合もあります。
たとえば、「ものづくり補助金」では、「地域別最低賃金に比べて事業場内最低賃金が+30円以上にすること」が条件となっており、「業務改善助成金」では「事業場内最低賃金を30円以上引き上げること」が申請の条件の一つとなっています。
時給制の事業場であれば、特に計算は必要ありませんが、日給制や月給制、出来高払制やその他の請負制などの場合は、時給に換算する必要があります。
日給の場合は賃金額を1日の所定労働時間(週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週平均所定労働時間数)で割り、月給の場合は賃金額を1カ月の所定労働時間(月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で割ることで求めることができます。
出来高払制やその他の請負制の場合は、出来高払制などで計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制などによって労働した総労働時間数で割り、時間当たりの金額を求めます。
これらを計算する際に、臨時の賃金や賞与、時間外労働などに対する割増賃金や各種手当は含めないように注意してください。
各従業員の時給を算定し、そのなかで最も低い時給が事業場内最低賃金となります。
この事業場内最低賃金に該当する従業員全員の賃金を引き上げることが助成金や補助金を申請する際の条件になっている場合は、次のように賃上げを行います。
「業務改善助成金」では、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である場合に、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げることで、引き上げられた従業員の人数によって助成金が支給されます。
たとえば、「事業場内最低賃金を30円以上引上げ」を行う場合、事業場内最低賃金が1,000円であれば、該当する従業員全員の時給を1,030円に引き上げることで条件を満たしたことになります。
気をつけたいのは時給が1,000円の従業員と1,020円の従業員が混在する場合です。
時給1,000円から1,030円に引き上げられた従業員は助成金の対象としてカウントできますが、時給1,020円から1,030円に引き上げられた従業員は、引上げ額が10円のためカウントできません。
1,020円の従業員も助成金の対象とするためには、1,050円に引き上げ、引上げ額を30円以上にする必要があります。
また、時給1,030円の従業員を30円引き上げても、もともとの1,030円が、引上げ後の新しい事業場内最低賃金以上のため、カウントできません。
助成金や補助金を申請する際に困らないよう、申請を検討している事業者は、時給の算定方法と、事業場内最低賃金について、理解を深めておきましょう。
コロナ禍では、オフィスから離れた場所で仕事をする『リモートワーク』という働き方が広まりました。
場所に縛られないリモートワークで、仕事場を自宅に限定する場合は『在宅勤務』と呼びます。
通勤の必要がなく、自宅にて自分のペースで仕事ができる在宅勤務は、高齢者の就業に向いている働き方といわれています。
高齢者の雇用促進に取り組む企業にとっては、在宅勤務が高齢者雇用の一つのヒントになるのではないでしょうか。
高齢者の在宅勤務を導入するメリットやリスクを把握しておきましょう。
総務省の統計によれば、2022年の就業者数に占める65歳以上の高齢者の割合は、13.6%と過去最高を記録しました。
就業者のうち実に7人に1人が高齢者であり、企業においては高齢者の雇用促進が喫緊の課題となっています。
日本では高齢者の就労意欲が高く、内閣府の調査によると、「収入の伴う仕事をしたい」と答えた60歳以上の高齢者の割合は40.2%と、諸外国よりも高いことがわかっています。
豊富な経験やノウハウを持つ高齢者の雇用は、企業の成長にもつながりますが、一方で、高齢者ならではの懸念もあります。
それは体力や体調への不安です。
再雇用制度を導入するなどして、高齢者を雇用していた企業が、体力や体調などの問題から高齢者は就労の継続がむずかしいと判断し、最終的には高齢者の積極的な雇用を取りやめてしまうというケースもありえます。
体力や体調に不安のある高齢者は、通常のフルタイムの社員と同じように働けない場合もあります。
そこで、体力や体調に不安のある高齢者を雇用する場合は、同時に『在宅勤務』の導入も検討しましょう。
制度や設備など、クリアしなければならない条件はあるものの、在宅勤務は高齢者雇用を促進するための有効な手段の一つです。
コロナ禍で浸透した在宅勤務の一番のメリットは、やはり通勤時間がなくなることです。
通勤は家事や労働と並び、日常生活における「生活活動」と呼ばれ、非常にエネルギーを消費する行動です。
特に満員電車による通勤は体力を消耗し、体力や体調に不安のある高齢者は通勤自体がむずかしいケースも少なくありません。
在宅勤務であれば、通勤そのものがなくなるため、体力の消耗や満員電車のストレスなどの問題がなくなります。
並行して時短勤務を取り入れるなど、勤務時間も見直すことで高齢者が働きやすい就業環境を構築することができます。
高齢者の在宅勤務を推進するうえで注意したいのは、コミュニケーションの問題です。
慣れた自宅で仕事ができるのは高齢者にとっても大きなメリットですが、ほかの従業員とのコミュニケーションが減ることで、状況の把握や意思疎通、モチベーションなどの面で問題が生じる可能性があります。
特に高齢者の場合は、自宅にて一人で作業することにより、強い孤独感や不安感を覚えることもあるため、チャットツールやオンライン会議システムなどを活用して、定期的にコミュニケーションを取るようにしましょう。
できるだけ、自宅でもオフィスにいるときと同様の就業環境に近づけることが大切です。
また、業務に関しても、事務作業やデータ入力、資料作成といった、在宅でも比較的対応が可能な業務を割り振る必要があります。
職種やその人の経験にもよりますが、たとえば、顧客対応や研究開発のように現地での作業が必要な業務は、高齢者の在宅勤務には向いていません。
パソコン作業に慣れていない高齢者であれば、個別のフォローも必要になります。
一般的に、高齢者はパソコンやインターネットが苦手というイメージがありますが、高齢者におけるパソコンの保有率やインターネット、携帯電話の利用率は年々増加しています。
総務省が公表した年代別のインターネット利用状況をみると、2023年時点で、60歳〜69歳が90.2%、70歳〜79歳が67%、80歳以上でも36.4%と、多くの高齢者がインターネットに触れていることがわかります。
それでも、在宅勤務で使用する各種ツールやパソコン環境などは、導入や運用にあたり一定の知識を必要とすることが多いため、支援する必要も出てくるでしょう。
健康上の問題や、身内の介護の問題などでオフィスへ通勤する勤務がむずかしい高齢者にとって、在宅勤務は大きな助けになります。
これまで遠距離通勤を続けていた高齢の社員が、在宅勤務に切り替えたことで、就労意欲を取り戻したというケースもありました。
ワークライフバランスの向上にもつながる在宅勤務は、高齢者の雇用にこそ効果的な働き方といえます。
既存の従業員の意見も取り入れながら、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
日本企業が開発途上国などの外国人を受け入れる『外国人技能実習制度』が廃止される予定です。
2024年3月15日に、政府は外国人技能実習制度に代わる『育成就労制度』を創設するための出入国管理・難民認定法などの改正案を閣議決定しました。
新しい育成就労制度は、これまで外国人技能実習制度で指摘されていた長時間労働や賃金の未払、労働災害の頻発などの問題に対処し、適正な外国人労働者の受入れを目指すためのものです。
新制度になることで、外国人を受け入れる日本企業にはどのような影響があるのか、解説します。
1993年に創設された『外国人技能実習制度』は、日本の技術や知識を開発途上国に伝えて、その国や地域の経済的発展に寄与する制度でした。
国際貢献を目的としており、本制度を定めた『技能実習法』には、「技能実習は、労働力の需給の調整の手段としては行われてはならない」旨が示されています。
一方で、日本企業にとっては労働力不足を補う側面があることも否めず、これまでさまざまな問題が頻出していました。
特に大きな問題となっていたのが労働基準関係法令違反です。
原則として、外国人技能実習生は実習実施機関と呼ばれる日本企業と雇用契約を結んで、働きながら技術や知識の習得を図ります。
雇用契約を締結しているため、当然ながら外国人技能実習生にも労働基準法を筆頭とした労働関係法が適用されます。
しかし、外国人技能実習生を労働力としか見ておらず、過去には当初の契約にはない作業をさせたり、長時間労働を課したりするケースが続出しました。
厚生労働省の発表によれば、2022年に労働基準関係法令違反が認められた実習実施機関は、労働基準監督署が監督指導を実施した9,829事業場のうち、73%以上に相当する7,247事業場でした。
主な違反事項については、使用する機械等の安全基準が23.7%と最も多く、割増賃金の支払が16.9%、健康診断結果についての医師等からの意見聴取が16.1%と続きました。
こうした安全基準の違反や賃金の未払は、最終的に外国人技能実習生の失踪を招きました。
外国人技能実習生は2022年時点で、34万人以上が在留していますが、年間1万人近くの実習生が、仕事場から失踪していることが法務省の調査でわかっています。
外国人技能実習生の失踪は、制度の仕組みも大きな要因でした。
違法な労働条件や長時間労働に耐えかねて別の企業での実習を希望しても、外国人技能実習制度では実習先を変更する、いわゆる『転籍』ができないため、逃げ出すしか、選択肢が残されていないからです。
さまざまな問題を抱える外国人技能実習制度は、長年そのあり方が議論されてきました。
今回、「人権侵害の温床」とも指摘されていた外国人技能実習制度が廃止されることになり、外国人材の処遇についても大きな変革のときを迎えようとしています。
では、出入国管理などの改正法の成立によって新たに創設される『育成就労制度』は、外国人技能実習制度とどういった部分が異なるのでしょうか。
大きな変更点は、制度の目的です。
外国人技能実習制度は建前として、あくまで国際貢献を目的としていたのに対し、育成就労制度は人材育成と人材確保を目的としています。
日本の産業における深刻な人材不足の解消に向け、新制度では『人材確保』を明文化したかたちとなりました。
育成就労制度では、この「人材育成と人材確保」を掲げ、外国人労働者の3年間の在留期間のなかで、将来的に「特定技能1号」のレベルまで育成することを目標としています。
特定技能1号とは、外国人技能実習制度における1年目に習得する技能と同等のレベルです。
また、外国人技能実習制度では認められていなかった外国人労働者の転籍も、「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大・明確化するとともに手続きが柔軟化され、条件を満たすことで可能になりました。
転籍は、労働条件の相違やハラスメントなどがある職場において、本人に一定の日本語能力かつ技能があり、就労した期間が1年を超えていれば認められます。
転籍が認められるようになることで、外国人労働者の働き方も柔軟になることが予想されます。
受け入れる企業は、労働条件通知書の提示や本人説明の記録など、労働条件について外国人労働者との認識の違いが起きないような対策を講じる必要があります。
また、新制度では、外国人労働者の権利保護の観点からも、労働基準監督署との連携を強化するなど、受け入れる企業に対して、より厳しい労働基準の遵守が求められます。
長時間労働や賃金の未払などの労働関係法違反も、これまで以上に厳しく取り締まりが行われることになると予想されています。
育成就労制度は、2027年までの施行が予定されています。
すでに外国人技能実習生を受け入れている企業はもちろん、今後、新制度を活用して外国人労働者の受け入れを検討している企業も、今度の動きを注視しながら、準備を進めていきましょう。
最近、『ブリリアントジャーク(Brilliant Jerk)』という単語が話題です。
ブリリアントジャークとは、優秀だけど人間性に問題があり、周囲に悪影響を与える人物のことで、動画配信サービスのNetflixが自身のサイト上で言及したことによって、注目が集まり、広く周知されるようになりました。
Netflixは「チームワークを損なうブリリアントジャークに居場所はない」とはっきり明言しています。
ブリリアントジャークによって組織を崩壊させないように、その特徴や対応策などについて、認識を深めておきましょう。
『ブリリアントジャーク』の「ブリリアント(Brilliant)」は日本語で「素晴らしい」「立派」「見事」と訳すことができ、「ジャーク(Jerk)」はスラングで「嫌なヤツ」を指します。
つまり、ブリリアントジャークとは「仕事はできるけど嫌なヤツ」という意味にあたります。
仕事はできるけど嫌なヤツは仕事ができるがゆえに、人を見下したり人間関係を壊すような発言をしたりします。
こうしたブリリアントジャークの言動や態度によって、ほかの従業員の士気やモチベーションは下がってしまいます。
日本にも、ブリリアントジャークに似た概念として、「問題社員」や「モンスター社員」といった言葉があります。
周囲に悪影響を与えるという意味ではブリリアントジャークと同じですが、彼・彼女らは必ずしも有能とは限りません。
ブリリアントジャークは、協調性がなかったり、攻撃的だったりする一方で、非常に仕事ができるという特徴があります。
ブリリアントジャークは有能なので、仕事面では会社側が指導することはありません。
しかし、本人は仕事で成果を出しているにもかかわらず、組織全体で見ると生産性が低下しているという事態を招いてしまいます。
ある研究では、組織にブリリアントジャークがいると全体のパフォーマンスが30〜40%落ちるという実験結果が出ています。
また、ブリリアントジャークは、事実であるか否かにかかわらず、組織のなかで自分が一番仕事のできる人物だと考えているため、上司であっても見下し、自分を非難する者を徹底的に排除しようとします。
こうなると、生産性が下がるだけではなく、職場環境も悪化していきます。
ブリリアントジャークとの人間関係を苦痛に感じて、組織を離れる人も出てくるでしょう。
ブリリアントジャークに対処できないままでいると、組織の崩壊は免れません。
ブリリアントジャークによって、何人もの社員が退職している状況に陥っているのであれば、すぐに対策を講じるべきです。
しかし、日本では本人に性格的な問題があるからといって、簡単に解雇することはできません。
まずは会社として、本人の言動や態度が改善されるよう指導を行う必要があります。
ブリリアントジャークに対するほかの社員からの指摘や取引先からのクレームがあれば、まず音声データやメモなどの証拠を揃えて、上司がブリリアントジャーク本人に口頭で注意するようにしましょう。
実は、ブリリアントジャークは本人自身がブリリアントジャークであることを自覚していないことも多く、指摘を受けることで改善する可能性もあります。
ブリリアントジャークは周囲からの見られ方を気にする人が多い傾向にあります。
自身の言動を客観的にとらえてもらう、いわゆる「メタ認知」を促すことがブリリアントジャークには効果的な場合もあるでしょう。
また、「仕事だけがすべてではない」「人には上も下もない」といった当たり前のことをブリリアントジャークに教え、行動の改善を促すのも上司の役割です。
もし、こうした取り組みを行なっても改善が見られないのであれば、ほかの社員との関わりが少ない個人で仕事が完結する部署などへの異動なども考えなければいけません。
このように指導や対策を行なったうえで、引き続き本人の勤務態度に大きな問題があり、改善が見られない場合は、解雇が認められることもあります。
前提として、Netflixが表明しているように、まずはブリリアントジャークを組織に入れないことが大切です。
そのためには、企業が「協調性がない人物」「モラルが低い人物」など、自社にそぐわないと思う人物像を明文化して、外部に向けて発信していくことが重要です。
企業側のメッセージは採用現場における指針になりますし、ブリリアントジャークを引き寄せない一助となることでしょう。
労働法の一つに『労働安全衛生法』という法律があります。
この法律は、高度経済成長期の労働災害急増がきっかけとなり、1972年に労働基準法から分離独立するかたちで制定されました。
労働安全衛生法の目的は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することで、事業者には労働者の健康保持や危険防止措置などが義務づけられています。
同法に違反した場合、行政処分や刑事罰などのペナルティを受けることになります。
労働安全衛生法によって事業者に定められている義務と、違反した場合のペナルティについて説明します。
労働安全衛生法を進めるうえで、事業者が実施すべき事項は、主に『管理者・推進者等の選任』『委員会の設置』『危険防止措置』『教育の実施』『健康保持増進の措置』などです。
管理者・推進者等とは、危険防止や健康管理を監督する安全管理者や衛生管理者のことを指し、労働者が常時50人以上の事業所では衛生管理者を、また特定の業種では安全管理者も選任することが義務づけられています。
そのほか、事業者は事業規模や業種に応じて、安全衛生推進者や産業医などを置かなければいけません。
委員会とは、安全衛生に関して審議を行い、意見を聞く『安全委員会』や『衛生委員会』のことです。
業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業所では、衛生委員会の設置が義務付けられています。
また、安全委員会および衛生委員会を設置しなければいけないときには、それぞれの委員会の設置に代えて、その両方を兼ねた『安全衛生委員会』を設置することができます。
危険防止措置とは、労働者が設備や作業などによって怪我や病気をすることがないようにするための措置のことで、特に高所作業や危険物の取扱いなど、労災が起きやすい危険な作業においては、具体的な防止措置が定められています。
教育とは、労働者に対して事業者が行う安全衛生教育のことで、従業員を雇用するタイミングや作業を変更するときなどに実施する必要があります。
安全衛生教育は、労災の防止を目的に労働者が従事する業務の安全や衛生に関する知識を学んでもらうものです。
ちなみに、フォークリフトの運転などに代表される危険・有害業務は、安全衛生教育とは別の特別教育が必要になるので注意しましょう。
そして、健康保持増進の措置とは、作業環境測定の実施や、事業者が作業の管理や健康診断などによって、労働者の健康を守るための措置のことです。
通常の労働者に対しては1年に1回の健康診断が義務づけられており、一定の有害な業務に従事する労働者に対しては、配置換えおよび半年に1回の特定健康診断の実施が義務づけられています。
さらに、法改正によって2015年12月からは労働者のストレスチェックも導入されました。
常時50人以上の事業所は、衛生管理者やメンタルヘルス推進担当者が主体となって、1年に1回の選択回答形式のストレスチェックを労働者に行い、実施状況を労働基準監督署に報告しなければいけません。
労働安全衛生法で定められている義務を怠ったり、従わなかったりした事業者は、労働安全衛生法違反となり、ペナルティを受ける場合があります。
ペナルティは『行政処分』『刑事罰』『民事責任』『社会責任』の4つです。
まず、違反の疑いがある事業者には、労働基準監督官による立入検査が行われ、違反が明らかになった場合には、都道府県労働局長や労働基準監督署長から是正するように勧告を受けることになります。
また、違反していなくても、労災の危険がある場合などは、使用停止命令や避難命令、立入禁止命令などが命じられることがあります。
このような行政処分と同時に、刑事罰を受けるケースも少なくありません。
罰則は違反の種類によってさまざまですが、たとえば健康診断を実施していなければ、同法の66条に違反していることになり、50万円以下の罰金が科されることになります。
労働安全衛生法の罰則は、違反者だけではなく法人も対象となる『両罰規定』となっており、事業者も罰せられます。
また、労災などによって労働者が死亡した場合は、刑法211条に規定されている業務上過失致死傷罪が適用されることもあります。
業務上過失致死傷罪の刑罰は、5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金となっています。
労災に基づく労働者の損害に関して、事業者は刑事罰だけではなく民事的な責任を問われることもあります。
精神的損害や財産的侵害については労災保険で保障されないため、被害者からその分の慰謝料を請求される可能性があることを留意しておきましょう。
労働安全衛生法に違反すると、行政、刑事、民事において責任を問われ、さらに信頼度の低下やイメージの悪化など、社会的な制裁を受けることにもなります。
こうしたペナルティを受けないためにも、労働安全衛生法を遵守しながら、労働者にとって安全で快適な職場環境を構築していきましょう。
統計局のデータによると2020年に、65歳以上の高齢者の就業者の数が900万人を突破しました。
65〜69歳の就業率は10年連続で上昇しており、今後もその傾向は続いていくと見られています。
そして、人手不足の解消に向けて、高齢者の雇用に取り組む動きが活発になっています。
定年を迎えた高齢社員を再雇用する『嘱託社員』は、多くの企業で採用されている雇用形態の一つで、企業側にさまざまなメリットをもたらします。
その一方で、リスクがないわけではありません。
ここでは再雇用された非正規労働者としての嘱託社員について説明します。
「嘱託」には、「頼んで任せる」「仕事を依頼する」などの意味があり、嘱託社員は企業から仕事を依頼された労働者を指します。
ただし、法的に嘱託社員という区分は存在せず、基本的には契約社員と同じ非正規雇用労働者という扱いに該当します。
多くの企業では、期間の定めがある有期雇用契約の従業員を『契約社員』、定年退職後に契約社員として再雇用した従業員を『嘱託社員』と呼び分けているケースが多いようです。
業務や待遇面で双方に大きな違いはなく、雇用条件についても「賞与なし」「退職金なし」など、契約社員と嘱託社員を同条件にしている企業がほとんどです。
つまり、契約社員の一部が嘱託社員として扱われるといえます。
雇用期間についても、正社員は期間に定めのない無期雇用ですが、嘱託社員は契約社員と同じ有期雇用であるため、あらかじめ半年や1年など、雇用期間を決めたうえで雇用契約を締結することになります。
総務省統計局の調査によれば、2022年時点で高齢雇用者のうち嘱託社員として働いている就業者の割合は6.6%でした。
嘱託社員を雇用する企業側のメリットは、自社でキャリアを重ねてきている人であるため、これまで培ってきた豊富な経験やスキルをそのまま仕事に活用してもらえることです。
長年勤めてきただけあり、会社とのミスマッチも起きず、ほかの社員とすり合わせする必要もありません。
嘱託社員にとっても、すでに慣れ親しんだ職場であるため、即戦力として実力を遺憾なく発揮することが可能です。
また、人材を一から育てる必要もないため育成コストがかからず、人件費も抑えることが可能です。
多くのメリットがある嘱託社員ですが、注意しなければならない点もいくつかあります。
一つは、高齢に伴う怪我や病気のリスクがあるということです。
高齢就業者はどうしても健康面の問題が増えるため、嘱託社員として雇用しても、短期間で退職してしまう可能性があります。
健康面から、定年前のような働き方をしてもらうことがむずかしいケースもあるでしょう。
嘱託社員として再雇用する場合は、労使間で話し合い、可能な勤務日数や1日の労働時間などを十分に確認しておく必要があります。
場合によっては、フレックスタイム制や時短勤務などの導入も検討し、柔軟な働き方ができるように配慮しましょう。
待遇についても注意が必要です。
パートタイム・有期雇用労働法8条・9条では、正社員と有期雇用労働者の不合理な待遇差や差別的な取り扱いを禁止しています。
これを『同一労働同一賃金』といいます。
もし、定年前と変わらない業務をしてもらうのであれば、賃金はもちろん、手当や福利厚生に格差をつけてはいけません。
また、企業によっては、嘱託社員と若手社員の間で起きがちなコミュニケーション不全も懸念材料の一つです。
これまで会社を支えてきた自負のある嘱託社員と、これから頑張るべき若手社員では、仕事への向き合い方や考え方が異なります。
管理職だった人物を退職後に再雇用する場合、かつての部下が上司になるケースも考えられ、摩擦が起きる可能性もあるでしょう。
こうした摩擦は、嘱託社員の認識の違いから起きることもあります。
若手の育成を担うサポート担当なのか、それとも現役時代と同様に若手と働くプレイヤー担当なのか、会社は嘱託社員にどういった役割を期待するのかを伝えるようにしましょう。
本人はプレイヤーだと認識しているのに、会社が求めているものが若手のサポートであれば当然、齟齬が起きます。
役割を明確にすると同時に、適切なフォローを心がけましょう。
退職後に嘱託社員として採用する場合、ベテランならではの力を組織で発揮してもらうためには、適切な業務の割り当てとフォローが必要です。
嘱託社員が制度化されていないのであれば、会社として方針を固めながら、嘱託社員の雇用を検討してみてはいかがでしょうか。
会社に損害を与えた従業員に弁済能力がない場合、事業者は従業員の身元保証人にも損害賠償請求を行うことがあります。
しかし、身元保証人に損害賠償請求を行うには、その従業員を雇用する際に、従業員の身元保証人と『身元保証契約』を結んでおかなければいけません。
身元保証契約は、『身元保証に関する法律(身元保証法)』によって定められており、正しく理解していないと、締結した契約が無効になってしまうこともあります。
身元保証法で定められている身元保証に関するルールを把握しておきましょう。
従業員が故意や過失によって会社に損害を与えた場合、事業者はその従業員に対して、損害賠償を請求することがあります。
しかし、従業員本人に弁済能力がなく、賠償金などが払えないこともあります。
こうした事態に備えて、多くの企業では雇用するタイミングで採用者に身元保証人を立ててもらい、その身元保証人と身元保証契約を結んでいます。
身元保証人とは、その名の通り、働く人の『身元』を『保証』する人のことを指し、事業者側は雇用する従業員に対して、身元保証人の氏名や勤務先、住所などを記入した『身元保証書』の提出を求めます。
この身元保証書の提出をもって、身元保証契約が締結されたことになります。
ここで注意したいのは、身元保証契約は雇用する従業員との契約ではなく、あくまで事業者と身元保証人との契約だということです。
そのため、事業者は身元保証人に対して『通知義務』を負うことになります。
たとえば、雇用した従業員に業務上、不適任な状況などがあり、将来的に身元保証人にも賠償責任が生じる可能性がある場合、事業者はその事実を迅速に知らせなければいけません。
また、被保証人(従業員)の業務や勤務地、職位などの変更に伴い、身元保証人の責任が重くなったり、目が届かなくなったりする場合も、通知する必要があります。
なお、身元保証人はこれらの通知を受けた段階で、身元保証契約を解除することもできます。
会社に損害を与えた従業員に賠償金の支払い能力がない場合に備えて、事業者は身元保証人と身元保証契約を結ぶわけですが、保証期間が長期だったり、保証する金額が無制限だったりすると身元保証人の負担が大きくなってしまいます。
そこで、身元保証法では身元保証契約について、一定の制限を定めています。
まず、保証期間ですが、期間の定めのない場合は契約成立の日から3年、期間を定めても最長で5年となっています。
期間を過ぎても更新はできますが、その場合は新たに更新契約を身元保証人と結ばなければいけません。
自動的に更新することはできず、身元保証書に自動的に更新する旨が書かれていても無効になります。
また、身元保証人が損害賠償を負う金額に関しては、身元保証契約で『極度額』を定めておく必要があります。
極度額とは身元保証人が責任を負う金額の上限のことで、極度額が設定されていない契約も無効になるので注意してください。
極度額は企業側で設定できますが、あまりに高額だと、そもそも採用者が身元保証人を立てづらくなるという問題も生じるので、十分な検討が必要です。
賠償金が設定した極度額まで認められることはほぼありません。
裁判所が身元保証人の損害賠償の責任と賠償額を定める際には、事業者による過失の有無や、被保証人の業務内容、身元保証人の管理・監督の程度などの事情を踏まえて、判断します。
一般的には、極度額よりも少ない賠償金額になることがほとんどです。
このように、期間と金額に制限があるのは、被保証人の不正など、不測の事態から保証人を守るためでもあります。
また、身元保証法に基づく身元保証契約は、労働契約とは異なる契約であり、法律上必ず締結しなければいけないというものではありません。
あくまで事業者と身元保証人との間で結ぶ任意契約ですが、従業員の不正やトラブルを抑制する効果もあるため、身元保証人を立てることを採用条件としている企業も少なくありません。
一方、採用のグローバル化や身元保証人の責任の大きさ、通知義務の煩雑さなどの理由から、身元保証の慣行の見直しの動きもあります。
身元保証人の責任の範囲などをよく確認したうえで、必要があれば採用した従業員に身元保証書を提出してもらいましょう。
事業の運営には、従業員や取引先とのコミュニケーションが必要不可欠です。
そして、コミュニケーションで重要になるのが、言葉遣いです。
経営者のなかには、従業員や下請け会社の担当者などに『ため口』を使ってしまう人もいるのではないでしょうか。
ため口は親密な者同士が使う親しさの表現ではありますが、ビジネスの場においては、ため口ではなく、『敬語』が推奨されています。
経営者がため口を使うとどういった弊害があるのか、敬語を使うとどんなメリットがあるのか、考えてみましょう。
対等で平等な関係だからこそ敬語を推奨
敬語とは相手に敬意を示し、尊重するための言葉遣いのことで、『尊敬語』『謙譲語』『丁寧語』といった種類があります。
敬語はビジネスマナーの基礎でもあり、社会人であれば必ず身につけておかなければいけないものの一つです。
しかし、組織においては、部下や新入社員に対して、敬語ではなく、ため口を使ってしまうケースが多々あります。
そして、経営者のなかにも、従業員に対して、ため口で会話をしてしまう人が少なからず存在します。
ため口は敬語よりも、相手との距離を縮められるような気がするため、あえてため口で話しかけるようにしているという経営者もいます。
しかし、ため口はあくまで家族や友人などの親しい間柄で使用するもので、労使の関係で使うのはふさわしくないでしょう。
使用者である経営者は「雇用する側」であり、労働者である従業員は「雇用される側」であることから、経営者と従業員の間には確かな上下関係が存在します。
しかし、役務を提供する労働者と役務の対価として賃金を支払う使用者の立場は対等であり、平等であるというのが労使関係における原則です。
労働契約も双方が対等の立場で締結されることを前提としています。
経営者に対してため口を使う従業員がほとんど存在しないのと同様に、対等で平等な関係だからこそ、経営者も従業員に対してため口を使わないようにするほうがよいでしょう。
また、関係が対等で平等なのは、企業間においても同様です。
発注者・元請け・下請けとそれぞれに立場はありますが、初めて会ったときなど、まだ関係性が構築できていない状態で、取引先の担当者に対してため口を使うのは、相手を下に見ている行為と受け取られかねません。
本人が意識している・していないにかかわらず、ビジネスにおいてのため口は「自分の立場が上」であることを示唆することにつながります。
よかれと思ってしたことだとしても、社外関係者へのため口はわだかまりやしこりを残すことにもなりかねないので、注意しましょう。
よほど親しくなければ、ため口は横柄で傲慢な態度に映ることがほとんどです。
相手と信頼関係を築くことがむずかしくなりますし、相手によってため口と敬語を使い分けているのであれば、相手を見て態度を変える差別的な経営者や会社だと捉えられてしまうかもしれません。
たとえば、自社の社員が同僚社員には敬語を使い、派遣社員にはため口を使うケースなどは、周囲から差別していると思われるでしょう。
会社の雰囲気や社風は、経営者の考え方や言動に大きく左右されます。
クライアント企業には敬語を使い、下請け企業や従業員にため口を使う経営者の態度は、その人のもとで働く従業員にも影響を与えます。
経営者がため口を使う会社では、従業員も部下や新入社員、派遣社員や下請け企業などにため口を使い出すようになるかもしれません。
また、従業員や取引先だけではなく、たとえばタクシードライバーやショップの店員などにも、「◯◯へ(行って)」「◯◯(をちょうだい)」など、ため口やぞんざいな口調で話しかけていないでしょうか。
そんな不遜な態度を取る経営者の姿を、意外に従業員はよく見ているものです。
逆に、年齢や立場、役職や社歴などにかかわらず、誰にでも敬語で接する経営者であれば、相手を敬うという常識的で健全な職場環境が構築されていくはずです。
丁寧な敬語が使える従業員ばかりであれば、企業価値も上がっていくでしょう。
さらに、敬語を使ったコミュニケーションは、ハラスメントが起きづらいともいわれています。
敬語には根底に尊重と配慮があり、相手と一定の距離感を保つ役割もあります。
厚生労働省が定めているパワハラの類型には、優位性を背景に、相手のプライベートに干渉する『個の侵害』があります。
他者のプライベートに踏み込みすぎた結果、パワーハラスメント(パワハラ)に認定されてしまうことも少なくありません。
意識的に敬語を使うことで、パワハラの抑制効果が見込めるでしょう。
経営者が敬語で話すようになれば、管理職や従業員も同じようにふるまうようになり、社内に相手を敬うよい文化が定着していく効果が期待できます。
まずは経営者がお手本として、敬語を使うようにしてみてはいかがでしょうか。
『労働者派遣法』は派遣労働者の権利の保護や、労働派遣業の適正な運営を確保するための法律です。
この法律に違反している派遣のことを『違法派遣』と呼び、人材派遣を行う派遣元の企業も、派遣労働者を受け入れる派遣先の企業も、違法派遣にならないように注意する必要があります。
もし、違法派遣と知りながら、派遣労働者を受け入れていた場合、派遣先の企業は『労働契約申込みみなし制度』によって、その派遣労働者と労働契約を締結する必要が出てくるかもしれません。
本制度の詳細について、確認しておきましょう。
厚生労働省の「令和4年派遣労働者実態調査」によれば、2022年10月時点において、事業所で派遣労働者が就業している割合は12.3%でした。
決して少なくない数の派遣労働者が派遣先の企業で働いていることがわかります。
欠員が出た企業や、時期によって業務量が変動する企業などは、人員の確保を目的に人材派遣会社から派遣労働者を派遣してもらうことがあります。
常に人手不足の企業では大きな助けになる派遣労働者ですが、受け入れる際に注意したいのが『違法派遣』です。
もし、違法派遣が発覚すると、その時点で労働者派遣法に基づく『労働契約申込みみなし制度』の対象になります。
労働契約申込みみなし制度は、2015年に行われた『労働者派遣法』の改正によって新設された制度で、違法派遣を防ぐことを目的としています。
まず、違法派遣により本制度が適用されると、派遣先の企業は、受け入れた派遣労働者に対して、派遣元の企業と同一の条件で労働契約を申し込んだとみなされます。
派遣労働者の雇用主は派遣元である『人材派遣会社』なので、派遣先の企業は人材派遣会社と同じ条件で派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなされるということです。
ただし、派遣先の企業が違法派遣であることを知らず、かつ過失がない場合は、制度が適用されることはありません。
本制度によって、派遣先から労働契約の申し込みを受けたとみなされた派遣労働者は、みなされた日から1年以内に承諾する意思表示を行えば、労働契約が成立します。
つまり、派遣労働者と派遣先の企業の間で労働契約が締結されるということは、派遣労働者が派遣先の企業の従業員になるということです。
労働条件についても、賃金や雇用契約期間など、派遣元の企業と結んでいた労働契約と同じ内容になります。
労働契約申込みみなし制度が適用される違法派遣の類型は、以下の5つです。
(1)派遣労働者を禁止業務に従事させること
労働者派遣法では、「港湾運送業務」「建設業務」「警備業務」「病院等における医療関係業務」について、派遣労働者を派遣することを禁止しています。
これらの禁止業務に従事させると、違法派遣となります。
ただし、病院等における医療関係業務に関しては、いくつか例外があり、派遣先が直接雇用することを前提とした紹介予定派遣や、産前産後休業などの各種休業を取得する労働者の代替であれば、派遣が認められています。
(2)無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
派遣事業は厚生労働省の認可を取得する必要があり、許可を受けていない無許可事業主から派遣労働者を受け入れた場合は違法派遣となります。
(3)事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
労働者派遣法では同一の事業所において、3年を超える継続した派遣労働者の受け入れができないという『派遣期間制限』が定められており、延長手続きを行わず、派遣期間を超えての受け入れは違法派遣となります。
(4)個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
事業所と同様に、労働者派遣法では同一の派遣労働者において3年を超える継続した受け入れができないという個人単位の期間制限も設けられています。
(5)いわゆる偽装請負等
労働者派遣法や労働基準法の適用を免れる目的で、派遣労働者と請負契約を結んでいた場合は、いわゆる偽装請負等として、違法派遣となります。
このような違法派遣を行うと、労働契約申込みみなし制度の対象になります。
対象になった場合、派遣先企業が希望していなくても、派遣労働者に労働契約の申し込みをしたことになり、派遣労働者が承諾した場合はその人を雇用することになります。
人事計画にない派遣労働者の直接雇用は、人件費の増加や組織の混乱などが引き起こされるかもしれません。
派遣労働者を受け入れる際は、違法派遣にならないように注意しましょう。
近年、SNSなどを中心に『JTC』という言葉が見受けられるようになりました。
JTCとは、『Japanese Traditional Company(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)』の頭文字のことで、いわゆる『伝統的な日本企業』を指します。
文脈としては、古い企業体質を揶揄するときによく使われ、あまりよい意味でとらえられることはありません。
JTCには、課題の改善に消極的で現状維持を優先させるといった企業文化が根付いている傾向があります。
もし自社がJTCの特徴に当てはまるのであれば、脱却するために何をすればいいのか考えていきましょう。
終身雇用や年功序列といった慣習を続けている企業は、まだまだたくさんあります。
厚生労働省の調査によれば、若い頃に入社して、そのまま定年まで勤め上げる人の割合は、2016年時点で大卒正社員が約5割、高卒正社員が約3割を占めています。
この割合は長期的に見ると低下傾向にありますが、『終身雇用制度の崩壊』が叫ばれるほどには減ってはおらず、また新入社員による終身雇用を望む声も増加しており、今後も終身雇用制度が日本から完全になくなることはないでしょう。
終身雇用の会社では、賃金に関しても勤続年数や年齢で昇給する『年功賃金』を採用していることが多く、終身雇用と年功序列の2つはJTCの代表的な制度といえます。
雇用の保障や安定した収入の確保など、終身雇用や年功序列にはメリットもあります。
しかし、JTCと揶揄される企業には、「ハラスメントがある」「不要な業務が多い」「ペーパーレス化していない」「前例がないと動けない」「トップダウン」など、さまざまな悪しき慣習が根付いています。
一般的には、保守的な縦割り型組織で風通しの悪い企業が、JTCの代表格として取り沙汰されます。
では、なぜJTCでは旧態依然とした風土や企業文化が醸成されてしまうのでしょうか。
一つに、伝統のある企業だからこその経営面での「安定」があります。
業績が安定していれば、リスクを取ってまで新しいことに挑戦する熱意は少なくなりますし、失敗を恐れ、現状維持で満足してしまいます。
リスクを取らなくなるということは、課題や不満があっても改善しようという意欲も起きないということです。
結果として、自由に物が言えない閉鎖的な雰囲気となり、上からの命令に従うだけのトップダウンの企業ができあがるというわけです。
このような企業では、停滞感が蔓延し、誰もがルール通りにルーティンで仕事をします。
顧客に目がいかず、柔軟な対応もできなくなり、目的が明確でない非効率的な仕事も増えていきます。
そうした企業からは、新たなイノベーションが生まれることはないでしょう。
JTCの持つ風土や企業文化は、組織の成長を妨げ、将来的な発展を遅らせる要因にもなりえます。
JTC特有の停滞した状況を改善するには、企業文化や制度の見直しが必要です。
新しいことに挑戦しても評価されないのであれば、誰もがモチベーションを失ってしまいます。
年功序列のように年齢や社歴に応じて昇給・昇格するのではなく、その人の業績や成果で昇給・昇格を判断する人事評価制度を導入するのも方法の一つです。
業績や成果が正当に評価されるのであれば、やる気もアップすることでしょう。
また、JTCから脱却するためには、ダイバーシティの推進も重要です。
JTCの社風や体制は「経営層や管理職が男性ばかり」「女性社員のお茶出しが当たり前」「制服着用が義務付けられている」「育児休業・介護休業が取りにくい」「飲みニケーションを強要する」など、多様な価値観を認める今の社会から逆行している例が少なくありません。
近年は、経営層への多様な人材の登用や、キャリアプランの多様化など、ダイバーシティの推進が経営に結びついている先進的な企業も増えてきました。他社の事例を参考に、ダイバーシティの推進に取り組むのも効果的です。
ほかにも、他部署間の交流などによるコミュニケーションの活性化や、押印や印刷の撤廃などペーパーレス化による業務効率化など、JTCからの脱却に向けてできることはたくさんあります。
JTCと呼ばれる古い体質の企業は、歴史のある大企業に多いことから、『大企業病』とも揶揄されます。
『JTC』や『大企業病』と呼ばれないような企業文化を作るためには、経営陣の意識改革が必要です。
まずは社内の意見をすくい上げて、できることから取り組んでみましょう。